短・中編

□好敵手
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 涼宮さんに団活後もしばらく残っているよう言われ、少し怯えながらも嬉しくなってしまったのは僕が彼女を信頼しかけていたからだろう。
 だから、こんな言葉を言われるとは思わなかったのだ。
「古泉くんも、キョンのことが好きでしょ?」
 なんて。


 それを言われた後、僕はどれくらい固まっていたのだろう。
 少なくとも涼宮さんがもう一度、
「好きなんでしょ」
 と訊きなおす――というよりは確認に近かったが――くらいには硬直していたはずだ。
「え、ええ、まあ」
 思わず口をついた言葉が用意していたものとは違っていた。
 もっと古泉一樹らしく、如才なく笑ってそんなはずありません、と否定しなければならなかったのに、今のではまるで肯定したようなものではないか。
 案の定涼宮さんは、
「やっぱり。ねえ、キョンのどこが好きなの?」
「どこ、と言われましても……」
 このまま閉鎖空間が発生して逃げ出せればいいのにと思ったが、どうやら発生する気配もないようだ。
 ……これは、覚悟を決めるしかないのだろうか。
「……優しさ、でしょうか」
 僕は、彼が僕をまるで一般人のように扱ってくれるところに恋をしたのだと思う。
 超能力者でも世界の命運を背負ったヒーローでも謎の転校生でもない、ありのままの僕を彼は見つけてくれた。
 僕が能力に目覚めた時に捨てるしかないと悟った物を彼は僕にくれた。
「涼宮さんはどうなのです?」
 自分が余計なボロを出す前にと涼宮さんに話題を振ると、彼女は一瞬意外な表情を見せてから、
「そうね、キョンはキョンだからかな」
「え?」
 思わず素に戻って声を出してしまった僕に、
「まず、あたしの髪型に気づいたこと。……ああ、これは古泉くんは知らないんだっけ? あたし、入学直後は腰くらいまで髪伸ばしてて、曜日によって結ぶ箇所を変えてたの。月曜はゼロ、火曜は1、水曜は2……っていう風にね。それを最初に指摘してきたのがキョン。それから、映画撮影の時だってなんだかんだ編集もやってくれたし、……あたしを殴ろうとしたのだって、あの時はやっぱりイラついたけど、あたしのことを認めてくれたからだって解ったの。そうじゃなかったらあんなことする奴じゃないもんね」
 でもやっぱり、と涼宮さんは深呼吸をしてから、
「あたしにちゃんと向き合ってくれた初めての人だったから。表面だけじゃない、本当のあたしを見つけてくれる奴だったからあたしはキョンを好きになったのかも」
 それを聞いて、涼宮さんも僕と同じなのだと思った。
 自分を素直に出せなくて、でも本当の自分に気づいてほしい、理解してほしいと思っている。
 それができない理由は違えど、根底にあるものは変わらない。
 彼に惹かれた理由も同じ。
「キョンって、結局誰にでも同じなのかしら」
 表情を曇らせた涼宮さんに僕も同調するしかない。
「期待したこちらが馬鹿みたいですよね」
 優しすぎるが故に、残酷な人。
 僕らから見たら気があるのではないかと勘違いしそうなことでも、彼からしたら当たり前なことでしかない。
「本当、タチの悪い優しさよね」
 ほうっという溜め息が見事に重なって、先に吹き出したのは涼宮さんの方だった。
「古泉くんとこんな話するなんて思ってもみなかったわ」
「僕もです」
 まさか神であるあなたと同じ人を好きになって、その愚痴を言い合えるなんて想像すらできなかった。
 ずっと、隠さなくてはいけない思いだと思っていた。
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