短・中編
□素直になりたい
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いつからだったかは解らない。
いつからか、僕は彼のことを目で追っていた。
不機嫌に眉を寄せた顔も、あきらめて傍観体制に入ったときの仕草も、何もかもを覚えている。
すべてを知りたいと思う。
いつもは僕に冷たいくせに、時折見せる優しさは嫌いだ。
それは優しくされるのが嫌な訳ではなくて、その優しさにありえないことを思ってしまうから。
それが、誰にでも注がれるものだと解ってしまうから辛い。
愛は素晴らしいと言っている人に全力で抗議したい。
こんなにも苦しくて、辛くて、苦くて、悲しくて、醜いものなのに。
自分がこんなに嫉妬したり、彼のことを変な目で見てしまうなんて知らなかった。
永遠に知らずにいたかった。
彼のことを嫌いになろうとしても、できなかった。
意識して距離をとってみても、「最近お前おかしいぞ」なんて彼が言うからそこまで僕のことを気にかけてくれていたというだけでさらに愛しさが募ってしまう。
彼の嫌なところを探そうとしてみても、それにすら愛情が溢れてきた。
いっそ告白してみようか。
彼が僕のことを恋愛感情で好きだなんて万に一つも無いのだから、気持ち悪いと言われればこの気持ちも冷めるかもしれない。
彼のことだからSOS団の仲間としては普段通りに接してくれるだろう。
決心がつかず、メールを作成しては削除を繰り返していると、手の中の携帯が震えた。
『明日の市内パトロールには行けないとハルヒに伝えておいてくれ』
残念だが、少しだけ安心したことも事実だ。
これで班分けのときに彼と同じ班になることを怯えなくてすむ。
『解りました』
これだけで止めておけばよかったのに、
『涼宮さんが寂しがりそうですね』
という一言を付け足して、そのまま送信してしまった。
そう待たずにメール受信中の画面に切り替わる。
『……お前は寂しくないのか?』
そんなこと言われても、僕は困るしかない。
この文面だけ見ればまるで僕に寂しがってほしいみたいじゃないか。
『僕の意見など訊いてどうするというのです?』
こんなふうに、嘘で塗り固めて彼を傷つけるしかできなくなるから。
寂しいと素直に言えばいいのに。
『別にどうしたい訳じゃない。ただ、お前の気持ちが知りたかったんだ……って言ったら気持ち悪がるか?』
そんなことありません、むしろあなたが僕のことを気にしてくださっていて嬉しくてたまらないくらいです、と言ってしまえばいいのに、僕にはそれもできない。