短・中編
□最後の祈り
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なあ、お願いだ。
早く起きてくれ。
「――古泉」
俺は眠り続けたままの古泉の頬に軽く手を触れさせた。
すべすべした肌は今にも起きそうなくらい張りがあるのに、いっこうに起きる気配はない。
心臓が動いているのかすら怪しい。
『愛してます』
頭の中に響く声は確かに聞こえるのに、目の前の古泉は口を開くこともしない。
ただ人工呼吸器の規則的な呼吸音と電子音だけが静かな部屋を埋めていく。
「なあ、古泉……」
情けないくらい小さな声も古泉には届かない。
髪を撫でる体温も、この想いも、何もかも届くことはない。
古泉。
俺は何をすればいいんだ。
突然の非通知の電話に嫌な予感がしながらも、なんとなく無視もできず、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『もしもし。森です』
「森さん?」
『はい。こんな時間にお電話して申し訳ございません』
「何のご用ですか?」
警戒するような声音になってしまったのは俺が緊張しているからだろう。
森さんはそれに気を悪くする様子もなく、
『古泉が、倒れました』
あくまで淡々とニュース口調で告げる森さんの声に一瞬頭が真っ白になった。いや、一瞬なんてもんじゃない。
永遠にも感じられる時間の中、やっと喉から絞り出した声はどうしようもなく震えていた。
「どうして……」
『超能力者たちの力は無限ではないのです。彼らは自身の生命エネルギーとでも呼ぶものを≪神人≫を倒すエネルギーに変換して戦っています。わたしどももそれを解っておりましたので交代制でうまくまわしていたつもりだったのですが……。最近、古泉がやけに張り切っていましてね。我々も止めたのですが、本人は意思を変えずに……今日、限界が来てしまったようです』
森さんにしてはいつになく早口で、彼女も責任を感じているのだと解った。
『すみません。わたしの管理ミスです』
「いえ、気づいてやれなかった俺も悪いですし。それより、古泉はどこです?」
わざわざ電話してくれたということは、古泉の居場所を教えてくれるということだ。
そう思った俺の読みは当たっていたらしい。
『入院しています。場所はあなたもよくご存知のあそこですよ』
なんとなくそんな気がしていた。あそこは『機関』お抱えの病院らしいからな。
『すぐ新川がお迎えにあがるはずですのでそれまで少々お待ちください』
森さんと電話を終えるのとチャイムが鳴るのがほぼ同時だった。