短・中編

□ないしょのことば
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「Merry Christmas!!」
「……メリー・クリスマス」
 ぷしゃ、と情けない音を立ててクラッカーが鳴る。
「どうですこの衣装、似合ってますか?」
 ニヤニヤと笑う古泉と、
「変?」
 心配そうに無表情な有希。
 なんで俺がこんな二人を眺めているかというと……
 はい、回想開始。


………
……



 ハルヒ達SOS団女性陣+鶴屋さんというメンバーに邪魔されたクリスマスデートもなんとか終わり(お世辞にも無事とは言えないが)古泉の家に送る途中だった。
 と言っても俺は泊まる気だったんだが。親に許可ももらってきた。
 俺がどのタイミングでカミングアウトをするかと悩んでいるとふと声をかけられた。
「あのっ、これからお暇ですかぁ? アタシ達とご飯行きません?」
 女子高生──大学、かな──の二人組。谷口辺りに見せたら食いつきそうな感じの雰囲気だ。
 隣を歩く微笑みくんは相変わらずの如才無いハンサムスマイルで、
「僕らはこれから用事があるので遠慮させて頂きます」
 女子高生らしきグループは諦めきれない様子でぶつぶつと古泉に話しかけていたが、それに負けじと古泉も断っていた。頑張るな、お前。
 そういえば逆ナンなんて今更あるんだな。今日それを嫌というほど思い知らされた。
 だって、これで5組目だぞ。恋人がこんなにモテるなんて少々不安だ。
「心配しなくても僕はあなただけしか見ていませんよ」
 いつさっきの二人が帰ったのかは知れないが、きっとこいつが色々がんばったのだろう。あと顔が近い。
 古泉はくくくという笑い声を漏らし、まだニヤニヤしている。
 何だお前、楽しいことでもあるのか。
「ええ、まあ」
 そう言ってまた口元を緩める。
「そのうち解ります」
 そのうちっていつだ。
「さあ?」
 きっと何度も鏡の前で練習したのだろうとしか思えないほどに様になっているポーズで肩をすくめる。
 言いたいことは黙っていてもしゃべり出すこいつのことだ。今どんなに問い詰めたって教えてくれないだろう。だったら無駄な努力なんてしないさ。
「あの……」
 またOL風女子二人組に話しかけられ、古泉は丁重に断っていた。
 6組目。
 この二人は諦めが良かったらしくすぐに去って行ったが、駄目もとだったのかもしれないな。
「まったく……放っていておいて欲しいものですね」
 憮然と言う古泉。モテる男の呟きなんて聞いてる暇ないね。だからその口をふさぎなさい。忌々しい。
「ではそうさせて頂きます」
 そろそろ古泉のマンションだ。……相変わらずデカい家だ。
 頬を緩めたままの古泉は呆れるくらい様になった様子で自動ドアを開け、エレベーターに入っていった。
 形容し難い音で扉が閉まり、ゴーッという低周波が聞こえて確実に上昇している事を俺に知らせる。
 いきなり視界が暗くなったかと思うとそれは今まで斜め前8センチ上にあったイケメン野郎の顔が目の前にあったからだった。顔が近い……とは言わない。というより言えない。口をふさがれているからだ。この辺で察していただけると甚だ幸いである。
「古泉っ、監視カメラ……」
「見せつけて差し上げればいいんですよ」
 チーン、とエレベーターが目的の階に到着した音。助かった。
「少々お待ち下さい」
 いつもなら部屋に着いた瞬間にあがるのだが、今日はなぜか玄関前で待たされた。
しばらく待ったが音もしない。
 おーい、古泉。
 ……返事もなし。
 10分、15分、20分……
 まさか俺を忘れて……
 少しなら構わないだろうとドアを開けたその時、



……
………
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