短・中編
□メリークリスマス
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「寒いな…」
「寒いですね……」
ふたりの声が同時に告げたのは、明らかな自然環境だった。
場所は人通りの少ない細い道。
時は12月下旬。
寒いのも無理がない……暑かったら心配しなければいけない季節だ。
まだぶつぶつと文句を言っている彼が一緒にいるから、僕にとってはとても心暖かいのだが。
「大丈夫ですか?」
そっと左手を差し出す。彼は少し赤くなりながらも自分の右手をおずおずと重ねた。
街中は浮き足立ったカップルで溢れかえり、互いにプレゼントを送り合う日であり、子供たちが年間で最も“明日”を待ち遠しく思う日でもある。
そう、今日は……
クリスマス・イヴ。
都合よく現れたクリスマスツリー前のベンチに腰を下ろす。あまりにご都合主義すぎないかなんて言わないで欲しい。1ヶ月も前から調査していたとは気付いてませんよね?
「ご都合主義すぎるだろ……」
小さく呟いた彼に気付かない振りをして今まで巻いていたマフラーをとる。
何も言わずに彼の首にそれを巻くと、彼が表情を歪めた。
「お前、まさか……」
抗議のような声を無視して自分の首にも巻く。
「何してんだよ!?」
何って……恋人巻きですが、何か?
「何か、じゃねぇよ!」
面白いほど顔が赤い。
いいじゃないですか、誰もいませんし。こんないい場所ありませんよ?
反論しようと口を彼が口を開きかけると、不意に今まで点いていた明かりが消えて辺りが暗くなった。
「何だ?」
あんなに興奮してた彼も心なしか不安そうに思える。きっと無意識にだろう、僕の腕を掴んでいる彼はかなり可愛い。
彼との思い出の腕時計を見て、時間を確認する。点灯まで、5,4,3,2,1……
ゼロ、の瞬間に彼の唇に触れる。自分の同じところで。
「んっ……」
彼も目を閉じて受け入れてくれる。
長いけど、爽やかなキス。
聖夜だからか、いつもよりも彼の鼓動が速く感じる。
やっと唇を離して彼の表情を確認すると、キラキラと輝くイルミネーションに照らされていつもの通り不機嫌な顔が見て取れたが、どことなく雰囲気に酔っているようでもあった。
「綺麗ですよ……」
耳元で囁き、そのまま冷たくなった耳たぶを甘噛みする。
「ふぁあ……」
さっきまでの文句はどこへやら、思いっきり僕に抱きついている。
「あなたって本当に耳弱いですね……」
うるせっ、と言いながらも少し刺激を与える度に必死に抑えた矯声を上げ続ける。
と、その時。
一瞬ライトが光ったかと思うと、カシャリというシャッター音が響いた。
「……っ、ハルヒっ!!」
彼が慌てて立ち上がろうとするも、マフラーのせいで首が締まってすぐにベンチに舞い戻った。
「いいもの撮らせてもらったわ」
ツリーの微かな灯りに照らされている、カメラを手にして満足げに笑っているのは涼宮さんだった。
「朝比奈さんっ!! 有希も!!」
「あのぅ……。隠しててごめんなさい」
「…………」
ますます彼は真っ赤になっていく。
「やっぽぃ♪ 鶴にゃんの登場さっ!」
「鶴屋さん!?」
声を上げたのは彼と涼宮さんの二人、威勢良くやって来たのはSOS団名誉顧問の先輩だ。
「あたしも二人が普通の友達じゃないことは感づいてたけどねっ、まさか付き合ってるとは思わなかったにょろよ」
「何で鶴屋さんがいるの?」
涼宮さんが質問したということは、鶴屋さんは誘ってなかったという訳か。
「みくるに聞いてねっ、面白そうだから来ちゃったのさっ」
にゃはは、とどこまでも朗らかに笑う鶴屋さんを見ているとこっちまで明るくなるから不思議だ。
彼も同じ感覚に陥っているようでもう何も言わずにただ笑っていた。
「ところでキョン、あんたこんなこと平気でする奴なんだ?」
悪戯っぽい笑顔で首に巻かれているものを指す。
「あっ、これは……」
やっと思い出してぎこちない手つきでマフラーを外そうとするが、慌てすぎて逆に絡まっている。
……本当に、あなたって人は……
見かねて手伝う振りをして、彼の耳元でそっと囁いた。
『Merry Christmas……』
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