短・中編
□つるみく(仮)
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「ねえ、みくる……」
いつになく憂鬱……というかアンニュイな感じで鶴屋さんがあたしに話しかけました。
「なに?」
その微妙な雰囲気に戸惑いながら、あたしは精一杯平静を装いながら答えます。
「あたし、ね……」
なんだろう。なんか今日の鶴屋さんはちょっとおかしい。
こんなこと考えてたからあたしはその言葉を聞き逃しそうになっちゃいました。
「みくるのことばっか考えて夜も眠れないのさ……」
「え」
いきなりそんなこと言われても、あたしは何も言えません。
それに、似たような台詞を何回か聞いたことがあります。男性から、その……告白の、前に。でも鶴屋さんは女性だし、たぶんそんな意味は含んでない。
「好き」
だからこの言葉を聞いてもあたしはあまり驚きませんでした。
何より、あたしも鶴屋さんが好きです。
「あたしも大好きですよ」
「違うっ」
駄々っ子みたいに言う鶴屋さんはいつもと違って、なんというか……可愛かったです。
「みくるの好きとは違くて……」
言いづらそうにくしゃりと顔を歪め、
「こういう、好きってこと」
言いながら唇をあたしの唇に軽く重ねました。
「嫌いに……なった?」
訊かれてもあたしはびっくりして答えられませんでした。
その行為自体にでも、鶴屋さんがあたしをそういう好きだと思っていることにでもなく、今まで気がつかなかった自分の感情に。
鶴屋さんはあたしが黙っていたのを勘違いしたみたいで、
「ごめん、今のは冗談っ! ちょっと遊びが過ぎちゃったねっ。反省っ」
ぜんぜん上手く笑えていない笑顔で言い訳をしました。
「うそつき」
自分でもどうかと思うほど冷徹な声が出ちゃったけど、一度発した声は取り消すことなんてできなくて、
「鶴屋さんの、うそつき。冗談なんかじゃないくせに……。あたしには返事もさせてくれないの……?」
さっきのお返しに、と今度はあたしからキスをしました。
背伸びをして、ちゃんと唇に。
「みくるっ……?」
「好きです。……鶴屋さんのことを、愛してます」
これが、愛してるってことなんだ。
こんなに心地よくて、優しくて、あったかい。
禁則があったからじゃなくて恋愛なんてしたことが無かったあたしなのに、こんなにもすんなり受け入れているのはなんででしょう。
……その答えは、これから見つけていけばいい。
「愛してる、みくる」
鶴屋さんはまた唇に触れてきました。
何度も繰り返しても決して深くはならないその行為に愛しさを感じてちょっと角度を変え、くすぐったそうに笑う気配さえ嬉しくて。
──さっきの無理に笑ってた顔より絶対今の方がいい顔してる。
休むことないキスの合間に見える顔だけでもあたしは充分すぎるくらい満たされました。
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