短・中編

□お正月(仮)
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 神社は有希の予想通りというべきか結構混んでいた。普段神なんか信じてないくせにこういうときだけ現金なやつらめ。俺たちもだが。
 さて、当たり前だが午前零時まで列が短くなるわけもなく、それまでの二時間余りでかなりの長蛇の列となった。
「早く来てよかったですね」
 独り言のように呟く古泉の無防備に薄く開いた唇をそっと奪う。一応己の名誉の為に言っておくが、あくまで一瞬だ。
 まだ何が起こったか解らないという表情をしている古泉に、
「今年最後のキスだ」
 とだけ言って顔を背けた。なにやら赤くなっている気がしたのでね。
「っ……!」
 息をのむ音がしてびっくりして振り向こうとすると、
「好きですよ……!」
 馬鹿っ、抱きつくなっ!
 必死に振りほどこうとしても無駄だ。こいつ、こんな細い体のどこにそんな力があるんだ!
 でも思い返せば意外と筋肉質だったっけ……じゃなくて!
「いい加減にしろっ……」
 囁くように言ってやると、
「はい」
 やけに素直に頷いた。
 ちゅ、と唇に体温を感じ、
「今年最初のキスです」
 大仰な動作で俺に時計を見せ、日付が変わったことを知らせる。
 一部始終を羨ましそうな眼差しで見つめていた有希を小声で呼び、軽く額に唇を触れさせた。
「ありがとう」
 有希はちょいと背伸びをして変な顔をしている古泉の肩に腕を掛け、頭の位置を少し下げると、俺がしたように頬にキスをした。
「ありがとうございます」
 これで古泉の機嫌も直ったらしい。なんというわかりやすい奴だ。
 周りが暗くてよかった。これじゃバカップルを通り越してただのバカだ。って、最初に仕掛けたのは俺なんだがな。
 やっと順番が回ってきた神様に賽銭を投げて手を合わす。
 ……願い事? 決まってんだろ。
『これからも三人で幸せに暮らせますように』
 これ以外ある訳がない。
 俺は薄目で古泉を視界に捉え、それから視線を落として有希を見る。
 まあ、結局……
 人並み以上に変なプロフィールを持つ家族が人並みに幸せだってことは、それはそれで世の中結構平和だと思うのさ。



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