短・中編

□お正月(仮)
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 今日の収穫は有希は何を着ても可愛いということ、これまた古泉は何を着せても無駄にかっこいいこと、俺は……まあ二人によると綺麗なんだとさ。俺は男だぞ。
 と、なんでこんな収穫があったのか気になるよな。ならないとか言うな。俺が困るんだ。ということでその理由を説明するのはちょいと時間を巻き戻して……




「もうすぐお正月ですね」
 そうだが、それがどうした。
「初詣に行きましょう」
 なぜ。
「お正月だからです」
 古泉は大仰なボディランゲージで、
「有希もそう思いません?」
 いきなり話を振られた有希は慌てることもなく俺と古泉を眺めるように見ていたがぽつりと、
「思う」
 ……こいつら、手を組んでたな。
「ということで」
 勝ち誇った笑みの古泉は続け、
「三人で行きましょうね」
 本当にこういう時は楽しそうに笑う奴だ。
 まあ、俺はこんな古泉を見るのが割と好きなのでこの時は何も言わなかった訳さ。


 それが間違いだったことに気が付いたのは31日……つまり大晦日だ。
「ただいま」
 ひんやりとした声は明らかな有希のものだ。
 古泉は自然にかっこつけて座りながら有希のSF小説を読んでいて、俺はご丁寧に古泉が買ってきたエプロンを付けて昼飯作りに励んでいた。
「古泉、ちょっと出てくれ」
「はい」
 部室で見せるそれとは微妙に違う笑みは心から幸福を感じているものだ。
「おかえりなさい、有希」
「ただいま、パパ」
 カレーを煮ていた俺は首だけで振り返り、
「有希、おかえり」
「ただいま、ママ」
 ん、その紙袋は何だ?
 有希はちらりと古泉に一瞥をくれてやり、
「買ってきた」
 ぱち、と瞬きをして、
「本当は三人で行きたかった」
 何買ってきたんだ?
「内緒」
 小首を傾げ、
「後で見せる」
 そりゃ安心だ。
 カレーがそろそろいい感じになってきたので盛り付け係の古泉にバトンタッチをして有希がいるテーブルで待つ。
 いや本当にあいつは盛り付けがうまいんだって。それにしても盛り付けだけのためにエプロンは必要なのかね?
「お待たせしました」
 高級料亭のウエイターみたいな完璧な仕草でやってきたのは言うまでもなく古泉だ。
「といっても、料理は彼が作ったものですが」
 と有希に断ってこれまた完璧な角度で皿を置いていく。
「いただきます」
 三人仲良くハモって食事開始の合図をし、カレーに手をつける。
 有希のやつは大盛りにしたんだが一番早く食べ終わり、二杯目に突入していた。
 俺と古泉が食べるスピードはほぼ同じで一皿目を食べ終わった頃に有希が二杯目を完食していた。
「ごちそうさまでした」
 再び三人仲良くハモって食事終了の合図をし、各々自分の皿を片付ける。
 有希が自分用のエプロンを着け、皿洗いに励む。うちはエプロン一家か。
「可愛いじゃないですか」
 ひそひそ声で囁くな。そんな当たり前のことを言ってどうする。
「いえ、特には」
 くすくすと笑ったきりそれ以上何も口にしなかった。それはそれで心配になるな。
「では何か喋りましょうか」
 いや、遠慮しとく。
「そうですか」
 特に傷ついた様子もないのはいつものことだからだろう。じゃなきゃよっぽど鈍いか、どっちかだな。両方かもしれん。
 きゅ、と水を止める音がしてキッチンに目をやると三枚の皿が綺麗になっていた。早いな。
「三枚だから」
 確かにそりゃそうだ。
 てててと俺たちの方に来た有希は紙袋をあさり、
「これ」
 手品のように次々と布を出した。

 1枚、2枚、3枚……で、終わりか。
 もちろんそれはただの布な訳はなく、俺の目が確かなら日本の伝統衣装の形をとっていた。
「きもの」
「明日着るものですか?」
「そう」
「ちょっと待て、俺たちが着るんだよな?」
「そう」
 有希は僅かに首を傾け、
「サイズは合っているはず」
 なぜ俺のサイズを知っている……とは訊かなかった。なんとなく知らない方がいいような気がしたからだ。
「着付けは誰がやるんだ」
「わたしが出来る」
 反論1、失敗。
「こんな格好でいるのを誰かに見られたらどうするんだ」
「嫌?」
 ああだからその瞳はやめてくれ。断れなくなっちまうだろ。
 反論2、失敗。
 結局それ以上の反論は思いつかず、着物を着ることになった。
「いいじゃありませんか」
 古泉はこんなときもイエスマンだ。誰かこいつに反論の仕方を説明してやってくれ。
「それはあなたに教えていただきたいですね」
 嫌だ。
「嫌よ嫌よも好きの内」
 一瞬間があり、
「涼宮ハルヒが言っていた」
 ハルヒの奴、変なことばかり教えやがって……!
 ぽかんとしていた古泉はすぐに笑顔になり、
「そうですよ有希、ママは照れているだけです」
 お前にその呼び名を許可した覚えはない。
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