荒磯老人ホーム
□新春の章
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あなたが落としたのは、金の斧ですか?
それとも銀の斧ですか?
「-------。」
あなたは正直者ですね。
ご褒美に・・・・
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正月の挨拶も一通り終えた、一月二日の朝。
老人ホームの談話室で、俺は元漫研のヤツに呼び止められた。
「おはよう、時任君。ねぇ、『初夢』見た?」
・・・初夢?
「おう。一応見たかな」
そう応えると、相手は息を呑んで、思いっきり見開いた瞳で『どんな!?』と訊いてくる。
「あんま大したコトねーぞ? なんかデッケぇー泉が有って〜 変なコスプレした桂木の孫に『大事なものを落としましたね?』って言われンの」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
俺の話を聞いて、そいつは金魚のように口をパクパクしたかと思うと、談話室中に響き渡る声で、こう言った。
「例の夢ッ、時任くんも見たんですってぇぇぇ!!!」
ええええええ〜!!!と、どよめきが上がる。
「時やん先輩もッスか?」
「やだぁ〜!これでほぼ全員じゃない?」
「久保田くんは?やっぱり見たのかしらッ」
なんだなんだぁ?
話が見えないが、どうもホームのやつらが揃って同じ夢をみたらしい。
「軽くオカルトだべな〜」
「ねぇ、龍之介くん。あなたは泉に何落としたの?」
「ああ、俺はこれだ。」
と、自分が乗っている車椅子の手すりをポン、と叩く。
「夢ン中で、のぞみちゃんに『あなたが落としたのは金の車椅子ですか?銀の車椅子ですか?』って聞かれて」
「うんうん。」
「『いつも見てンべ?あのレンタルの車椅子だよ。』つったら、『あなたは正直者ですね♪ごうかぁ〜っく!』って、オデコに判子押されてよ。 目が覚めて、おしまい。」
「アタシも〜! 『落としたのは普通の紙の同人誌よ』って言ったら、合格だって言われて目が覚めたの〜!」
「同人誌?」
「金や銀の同人誌じゃ、ピカピカ光っちゃって読めないしねぇ?」
「ま、そうだけどよ;」
「なんだ、そりゃ。」
龍之介たちの話のあまりの内容に、思わずツッコんじまった。
「え?時任くんも同じ夢見たんでしょ?」
「時やん先輩のは違った展開だったとか?」
「んー、俺の場合は・・・」
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