*宝箱*
□Ginger Brown 桂さほ様より 可愛いお話頂きました☆
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迷い子
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混み合う大通り公園。今日と明日はクリスマスの催しも兼ねアチコチで華やかな飾り付けもされいて人々の目を楽しませていた。家族連れ、友達同士、恋人同士と周りは綺麗だねと楽しげに笑い合っている。
「はぁ」
そんな中、原田は大きな溜め息をつく。せっかくの綺麗なイルミネーションも迷子探しに時間を取られて楽しむ余裕もないからだ。
「暗くなる前に此処から離れた方が良かったかもな」
呟く声は真白く煙り闇夜に登る。
携帯は通じねえし。
電波状況が良くないのかと人混みから少し離れた場所に移動しようとすると突然コートの裾を何かにキュッと引っ張られた。
何かに引っ掛けたか?
振り返るとそこにいたのはピンクの物体。否、ふわふわピンクのコートを着た小さな女の子が片手にクマのぬいぐるみを抱きもう一方の手で原田のコートの裾を掴んでいたのだった。
な、何だ?
原田は突然の事に動揺する。子供の扱いに慣れてない上、小さな子供は更に苦手な存在だったから。それでもこんな中を小さな子供を放る訳にはいかず仕方なしに原田は腰を屈め女の子の顔を覗き込んだ。
「ええとな、ママとパパはどうしたんだ?」
なるべく怖がらせないように優しく問い掛ける。女の子はおずおずと顔を見上げて原田を見た。その女の子の顔に原田は「え」と小さな声を無意識に漏らす。
「…ママどこかに行っちゃったのぉ」
原田の動揺を感じる訳もなく可愛らしい声で女の子は答えた。
「そ、そうかそれなら探している筈だな」
気を取り直して原田は女の子の涙で濡れた顔を指で拭う。
迷子は兎に角、案内所だよな。
小さな手を握り連れて行こうとすると首をふるふるして「抱っこして」とジェスチャー。
「抱っこかよ」
クマしゃんもなのと原田に強請る。仕方ねえなと思いながら小さな体とクマのぬいぐるみを纏めて抱き上げた。
「こらっ暴れるな!」
すると女の子は上へと登ろうとよじよじしてくる。危ないとそれを止めるとバタバタ身じろぎ。
「いやぁ〜」
「良い子にしてねえと下に降ろすぞ」
「いやいやぁ〜」
泣き出す女の子にやはり子供は嫌いだと原田は改めて思う。
腹の中で悪態つく原田の気持ちを余所に女の子はむぎゅうと首根っこにピトりと張り付きコアラ状態。
「苦しいって…」
「だっこなのぉ〜」
「はぁ…分かった分かった」
泣きながらウニュウニュ訴える女の子の背中をぽふぽふ叩いてやるとようやく力を緩めてくれた。
「たかいとこにいないとママと"そーしお兄ちゃん"が見えないの」
"そーしお兄ちゃん"
極力聞きたくない名前にあやす手がピタリと止まる。
「そーしお兄ちゃんはね、いつもママよりはやくちづるを見つけるの」
"ちづる"
原田はもう一度その女の子の顔を視界に映し入れた。
「名前はちづる…って言うのか?」
こくり頷くその女の子ちづるは千鶴に似ている、と言うより千鶴を小さくした雰囲気を妙に醸しているのだ。
「ちづるの知り合いに"千鶴お姉ちゃん"っていねえのか?」
「ちづるはちづるだけなのぉ」
戸惑う原田の問い掛けを不思議がる事なく頬を膨らましてちづるは答える。
「そうか、そうだな悪かったよ」
親戚間で余程の事がない限り同じ名前を付ける筈はない。
原田は馬鹿げた質問をしてしまったと苦笑いする。
「そーしお兄ちゃんはまだかなぁ」
心細い小さな声に原田はハッとする。自分も迷子を捜索中だった事を思い出したからだった。
−−千鶴!
女の子を抱き上げたまま携帯を取り出すと千鶴からの着信が入っていた事に気付く。
「やばっ」
慌ててコールしようとするとちづるの小さな手が携帯をペタペタ触り邪魔をする。
「こら、ちょっと待て!」
「ちづるも、もしもしするの〜」
「するって番号知ってんのかよ」
何それ?と首を傾げるちづるに原田は溜め息を吐く。
ぐずぐずとそーしお兄ちゃんと繰り返すちづるにどうしたものかと思いつつ妙に不愉快な気持ちに陥っていくのを感じる。
何故なら−−。
千鶴が俺じゃなくてアイツを頼っている気分ですげぇ胸くそ悪いんだよな。
それが表情に出てしまったのだろうか。ちづるが原田の頬をぺちぺち叩く。
「お兄ちゃん、こわいカオしちゃイヤ」
目をウルウルするちづるに原田はハッとし表情を和らげた。
「悪かったな」
頭を撫でてやるとちづるは「きゃう」と嬉しそうに笑う。