*宝箱*
□相互リンク記念作品…甘美なペナルティ…斎藤一(薄桜鬼パラレル)
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*甘美なペナルティ*
「あの…斎藤さん」
その人は目の前の絵に見入っているのか私を見る事はない。何度か繰り返し名前を呼ぶがやはり無反応で…。
やっぱり嫌だったのかもしれない。
私はしゅんと俯いて小さな声で「先に行きますね」と声を掛けた。案の定返事はなかったけれど。
今日はデパートで開催されている私が好きなイラストレーターの原画展。本当は兄の薫と来る予定だったのにいきなりのドタキャン。
せっかく買った前売りがもったいないと頬を膨らまし文句を言ったら薫はニッコリ笑う。
「お前は大事な俺の妹だから一人で行かせるなんて可哀想なマネする訳がないだろ」
小さな子供じゃないんだからそんな心配はいらないの。
私はただチケットがもったいないと言っているだけなのに薫はベラベラ一方的に喋りまくり人の話を全く聞く気なし。
しかも勝手に自分の代わりを決めていたらしく駅前広場で誰だか分からない相手を待てと言う。
もちろん嫌だと私は拒否。すると薫は人の悪い笑みを浮かべる。
「散々待たされ挙げ句にドタキャン確定か…気の毒な奴もいるもんだな」
ドタキャンは薫でしょ!!
結局、私は誰か分からない相手を待つ事になったのだけれど…。
誰だろうと辺りを見回すがらしき人物は見当たらない。一人で行った方が早かったなと思い駅への階段に目を移す。
すると聞き覚えのある声が私の名前を読んだ。振り向くと同じクラスの男の子。
彼かな?
それだったら普通の人選だなと思ったがどうやらその男の子ではないらしい。
相手が誰か分からないまま男の子と月曜日に提出するプリントの話でああだこうだと盛り上がっていると背後に誰か立つ気配。
「斎藤じゃないか」と言う男の子の声に振り向くと確かに斎藤さん。まさか土曜日に会えると思えなかったから私は嬉しくて頬が緩むのを感じた。
「こんにちは斎藤さん」
ちょこんと頭を下げると少し不機嫌そうにポツリ一言。
「待たせたな」
「え?」
首を傾げる私に男の子が不思議そうな顔して聞いてくる。
「なぁ前から思っていたんだけれどよ。何で雪村って斎藤とタメなのに"さん"付けしてんの?」
「え、ええと」
昔…かなり昔から斎藤"さん"だったから今更それ以外の呼び名では呼び辛い。それに今は同じ年だからと言って"君"とは呼べず呼び捨て何て失礼過ぎて呼べる事も出来ず。
結局は以前と変わらぬ"さん"付けだったりする。
端から見たら変かなと思っていたけれどやっぱり変だったみたい。
返答を悩む私に斎藤さんの強引なフォロー。
「俺は気にしてないからどうでも良い。それより話は終わったのか?時間がなくなるぞ」
「は、はい」
私は背筋をピシャッと伸ばして駅の階段に向かう斎藤さんを追い掛けた。
「あ、あの薫にチケットを押し付けられたんですか?」
私は歩く斎藤さんに小走りで近付き問い掛ける。
「興味があるなら行くかと言われた」
「ごめんな…さい」
息切れがしてきたので私は走るスピードを落とした。当然のように斎藤さんとの距離は開いてしまう。それに気付いた斎藤さんは歩調を遅めて私に合わせ歩いてくれた。
「何で謝る?」
「薫の事だから無理矢理押し付けられたかと思って」
「それはないが…ぼったくられた」
"ぼったくり"って…。
何を斎藤さんにしたのよ薫〜!!
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