Drowing You.
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「モーツァルトは何を言いたかったのかな……」
医務室のシーツに負けないほど青白い、彼の端正な顔を見つめながら呟く。
――君は、何ひとつわかっていないことを思い知るんだ。
彼の自殺未遂は、結局わたしに更なる混乱を招いただけだった。なぜ自殺なんてしようとしたの? 自分はこんなに苦しかったと表現するため? でも下手したら本当に死んでしまうのに? それとも彼は本当に死のうとしたの? わたしを呼んだのは、恐怖と後悔で一生苦しませるため? それほどわたしのことが嫌いなの?
「わたしには……わたしには、全然わかんないよ……」
「ううん……」
ヒトラーもゆるゆると首を振る。
「僕にも……わかんないや……」
「……そっか」
結局誰にも分からない。自殺を決心したモーツァルト本人以外は。
――早く、目を覚ましてよ。
――分からないことがあるのは苦手なんだ。
――謎掛けしておいて、答えは教えないなんて、そんなの許さないんだから。
わたしはそっとモーツァルトの手へと手を伸ばしかけて、
――凡人が僕に触るなよ!!
そっと手を下ろした。
「……でもね、しおん。僕、一つだけ分かったんだ」
ヒトラーがいくらか表情を明るくさせる。
「モーツァルトがこうなっちゃったのは呪い何じゃないかって一瞬思ったんだけど……そうじゃなかった」
胸ポケットから、かわいらしい羊のマスコットを取り出してみせる。
「ドリー様の慈悲があったから、モーツァルトは一命を取り留めた」
「……あ」
彼の持っているドリー様の円らな瞳をみて、それがモーツァルトによって踏みにじられたものと同一だと気付く。
「直したんだよ」
そっとモーツァルトの枕元へ置く。なるほど、こうすればドリー様が彼を守ろうと寄り添っているようにも見える。
「うん……そうだね」
――お願いします、モーツァルトを元気にして下さい。
そこまでドリー様を信じていたわけではなかったけれど、今は祈ればドリー様が叶えてくれる気がして。わたしは心の中でそっと祈った。
「……そういえば、しおんが作ったドリー様ってどうした?」
「え……まあ、持ってるけど」
「ちょっと貸して?」
うん? と首を傾げつつ彼の手のひらへのせる。
「いいけど、何で?」
「コレ、まだドリー様じゃないから」
その彼の一言にうっ、と言葉を詰まらせる。
「……あ、うん、ありえない下手さだしね」
「違う違う」
ヒトラーは笑って首を振る。
「ドリー様にするには、洗礼してもらわないといけないんだよ」