love me.
□お望み通りに。
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「どうだ、学校は」
唐揚げをほおばっていると、お母さんがこほん、とせきばらいをしてからそう尋ねてきた。世間が落ち着いて、ようやくお母さんも仕事から解放された。きょうは久々の夕食、久々のやりとりだ。わたしはかんでいる唐揚げを飲み込むと、いつものように力いっぱい「面白かったよ!」と答えた。
「今日はねぇ、えぇーっとね……あれ、何があったっけ」
わたしは今度は、お赤飯を口の中に運びながら考える。ゆっくりゆっくり考える。お母さんはせかさずにうんうん、と聞いてくれる。
「あ、そうだ! 進路希望の紙配られたよ!」
「何?! もしかしてもう提出済みか?!」
「うん!」
「うん、じゃない!」
お母さんが目を三角にして怒る。
「そういう大事なことは早く言えと言っただろうが!」
「だって、お母さん、最近忙しそうだったんだもん」
「うっ」
ぐうの音も出ないのか、お母さんが黙り込む。うん、お赤飯がおいしい。
「なんて書いたんだ?」
しばらくしてお母さんが口を開く。わたしはえへへと笑った。
「ユキのお嫁さん」
「ふざけるな!」
怒られた。
「しかもよりにもよって本番の紙に!」
「だって、本気だもん」
「うう、いちいち口答えをするように……反抗期か? 反抗期なのか?」
「あれ、お母さん泣いてる?」
首を傾げたその時、丁度ぴんぽーん、とドアのチャイムが鳴った。
「誰だろ……」
訊き返すより早く、「どうも、早坂です」と聞き慣れた声がドア越しから呼びかけた。お母さんがガタガタっと椅子からすべり落ちた。
「おまえ!」
「失礼しまーす」
「勝手に入るな!」
「わー、ユキ! 会いたかったよ!」
「よ、如月。俺も会いたかったぜ」
「如月! 食事中に席を立つな行儀悪い!」
お母さんが何やら言ってるけど、ユキに会えた嬉しさで何も耳に入らない。ぎゅっとユキに抱きつけば、ユキも抱きしめ返して、よしよしと頭を撫でてくれた。
「お、赤飯じゃん。何々、親離れ祝い?」
「なわけあるか! 今日はなんたって、如月のた」
「まーどーでもいいけど。こいつ、借りていきますね」
「は?!」
ユキがわたしをひょいと抱き上げる。
「今日はちょっと用事がありますんで」
「ちょ、せっかくケー」
「あ、そうそう。近いうちにまた御宅にお邪魔しますから」
「なんだと」
「結婚を前提に真面目なお付き合いをさせて頂いてるんで、そのご挨拶にね」
「ちょっと待った」
「じゃ」
「ユキ〜!」
ホカホカの唐揚げに手を伸ばすが、空を掴む。
「まだわたしご飯食べてなーいー!」
「あとで美味しいもん食わせてやるよ」
「わーい! ならいーや!」
「こら、おまえら!! 待てぇー!」
せっかくケーキを焼いたのに……渾身の出来だったのに……
お母さんのそんな悲痛な叫びを、わたしは知らない。