love me.

□盗み聴きして、
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「よし。これを繋いで準備完了、と」

妙に艶のある中年の声が、傍受している警察無線から流れる。葛西善二郎だ。ノイズに混じって、ガチャガチャと何かをいじり回す音が聞こえる。
その瞬間、銃声が雑音を引き裂いた。息を呑むような音、そして、馴染みのある笛吹の声。

「やはりおまえだったのか」

宿敵を追い詰めた喜びも興奮も見せることなく、冷静に、淡々と言葉を紡いでいる。

「放火を主に脱獄も含めて前科1342犯。ギネス級だ。おまえから犯罪を奪ったら何も残らん。だから、奪ってやる。
おまえから全てを奪って、おまえという人間を終わらせてやる」

笛吹の高らかな宣言に、誰かがくっと笑うように、しゃらくせえ、と呟いた。

「桂木の助手から聞いたとおりだ。ビルの配水・配電施設に、葛西、おまえは必ず現れると」

それは、俺たち早坂兄弟が如月を通して手に入れた資料にも書いてあった。
外部のタンク車から水道管に繋ぎ、水の代わりに可燃液を送り込み、ポンプ室で一気に圧力をかける。
高層ビルのポンプの性能は強力だ。ものの数秒で、水道管を通って可燃液はビルの隅々まで行き渡る。
可燃液が水道管から溢れ出すタイミングで、今度は配電室をいじり、全ての電線をショートさせる。ビル全ての電気系統から飛んだ火花が、ビル全てにぶちまけられた燃料に引火し、ビル全てを同時に火の海にするわけだ。

「大したモンだ」

笛吹の説明を黙って聴いていた葛西がようやく口を開く。

「だが、なぜここだと分かった?   東京にビルの数は星の数ほどあるってのに」
「簡単なことだ。可能性のある全てのビルに、捜査員を置いただけだ」

一切の驕りも見せずに笛吹が答える。

「皆が東京全てのビルを調べ、私がその中から絞り込んだ。この犯行なら下準備には一時間かかる。その間に発見連絡し、定めておいた最短の道のりで東京中から集結し、包囲と一般人の避難を済ませたまで」

どこが簡単なんだ、と俺は笑い出しそうになった。この短期間で、この少人数で、相手方に知られないようにする事がどれだけ大変なことか。盗聴とヘリコプターを駆使した俺たちにも引けを取らないスピードでビルに集結し、更には一般人の安全まで確保してしまうのだから、笛吹の指揮能力の高さは馬鹿に出来ない。

ふう、と葛西が息を吐く。

「分かった分かった。ちょっとタバコ吸って落ち着かせてくれ」

のんびりした口調と、マッチを擦る軽い音。

「キサマ!   怪しい行動はするな!!」

過敏に反応してしまったのか、刑事らしき男が声を上げる。笛吹の静止の声を、銃声が掻き消した。
一瞬の沈黙、やがて、軽く水が跳ねる音。それを皮切りに、空気が一気に膨張したような爆発音が響いた。映像までは届かないが、何が起こったかは想像が付く。きっと、撒き散らされていた可燃液に火がついたんだ。

「熱い!」
「くそっ」
「逃走の備えまでしてたのか!」

方々で上がる呻き声を笛吹の声が「落ち着け!」と一喝する。

「こんな時の配備も万全だ!   確実に追い込むぞ。勝利はこの私が約束する」
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