love me.

□デートをして。
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「うふふのふー、えへへのへー」


 自然に鼻歌が出てしまう。そんなわたしを見て、ユキは柔らかく笑った。


「楽しそうだな」
「うん! だって、ユキと二人だけでこうしてどこか行ったことはなかったでしょー」
「それが嬉しいのか?」
「当たり前じゃん!」


 元気いっぱいにうなづくと、ユキは顔を背けてぼそっと呟いた。


「……期待、しちまいそうだ」
「え?」
「いや、なんでもない」


 ユキは本当に何でもないように言うと、「ところで、どっかの店に入らねーの?」と首をかしげた。


「お店?」
「あんた、何か欲しいもんねぇの? せっかくだし、買ってやらないこともない」


 んー、とわたしは考える。


「それって、つまり、えっと……買ってくれるってこと?」
「そうだよ馬鹿ちん」
「わーい、やったー!」


 嬉しいという感情が体中をかけめぐる。わたしはきゃーと歓声を上げ、ユキにうるさいぞと怒られた。


「で、何が欲しいんだ?」
「うーんとね、じゃあねじゃあねぇ……」


 おいしいもの、楽しいもの、おいしいもの、楽しいもの……ぐるぐるとお菓子やおもちゃ、本が頭の中を回る。街のおいしそうな看板や楽しそうなおもちゃのディスプレイが心を浮き立たせる。やがて、わたしの目がクレープに止まった。あれは、やこちゃんとかなちゃんと食べておいしかったお店だ! わたしはそのお店にかけよった。


「ユキユキ! クレープ食べたい!」
「クレープ?」


 ユキが妙な顔をする。


「もっとこう、宝石とか服とかじゃなくていいのか? 女って、そういうのが好きなんじゃねーの?」
「いらなーい」


 わたしはふるふると首を振った。


「宝石やお洋服は美味しくないもん」
「ふーん」


 ユキは少し考えた後、にっと笑う。


「ま、あんたらしいや。で? どれにすんの?」


 ビシィっと指差し、わたしは高らかに宣言した。


「チョコイチゴアイス入りスペシャル!」
「じゃあそれで」


 ユキがクレープやさんのお姉さんに注文する。お金を払うために財布を取り出したとき、ユキがなぜかにやっと笑った。


「一番高いやつじゃん。あんた、遠慮のかけらもないな」


 う、怒られてる? わたしは首を縮め、説得を試みる。怒られるのは苦手だ。


「だって、ここのチョコイチゴアイス入りスペシャルはおいしいんだよ!」
「ふーん。ま、確かに豪華だよな。太るぞ」


 かなちゃんと同じこと言ってる……太ったらみんなからばかにされるんだっけ。でも、ここのクレープ、おいしいし……けど、ばかにされる……。迷うわたしに、更にユキがたたみかける。


「そうなったらもう抱っこしてやんねーからな」


 抱っこされる安心感を思い出して和んだ後、それをしてもらえなくなる重大さにガクゼンとした。話を聞いていなかったお姉さんが、はいどうぞと大きなクリームたっぷりのクレープを差し出してくる。これを食べたら、確かに太りそうだ。受け取るか、やっぱりやめるか。あぁ、とってもおいしそうだなぁ。……迷った末に、わたしは素直に受け取った。そして、ぎゅっと口を引き結んだ。


「べっ、別にいいもん」
「あっそう? じゃあもう抱っこは終わりな」
「うー……」


 ユキと話していると、いつも任されたような気持ちになる。それが悔しい。


「いいもん、このクレープユキにあげない」
「あ、ちょっと、如月如月」


 ユキがふと何かに気付いたように手招きをした。


「え? なになに?」


 慌ててユキの元へ駆け寄る。すると、ユキは、ぱくっとわたしの持っているクレープにかぶりついた。あれ。え。なんで。いまいち状況が理解できない。ようするに、えっと、ユキはわたしのクレープを、食べたってこと?


「うわぁ! ……うわぁぁぁ!」


 悲鳴を上げるわたしに、ユキが口元についたクリームを舌で舐めてみせる。


「ん、うめーな」
「ばかぁ! ユキのばかぁぁ!」
「あんたに言われたくねーよ」
「もう最低! 悪魔! いじわる! ユキなんか知らない!」
「はいはい。次行くぞー」


 ユキがいじわるくにたにた笑ってわたしの背中を押した。わたしはしくしく泣きながら、クレープにかぶりついた。おいしい。不覚にも、一瞬なごんでしまった。
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