子犬のワルツ

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    何時の間にか眠ってしまっていたらしい。はっと目を覚ませば、無機質な明かりに照らされたリビングルームが目に入る。最後の記憶にある様子とまったく変わっていない。誰も帰ってきていないみたいだ。
   上半身を起こせば、テーブルに置いておいた二つの箱が目に入る。久兄とユキ兄が喜ぶ想像しかしなかった自分の詰めの甘さを苦く思う。馬鹿だった。彼らは立派な大人なんだから、仕事に追われて帰ってこない、という事もないわけじゃない。特にここ数ヶ月は忙しいと言うのに。
    時間を確認しようと携帯電話を開いたら、一通のメールが来ていた。兄さんかな。はやる気持ちで受信ボックスを開けば、匪口からだった。思わず溜息が出る。一応目は通したが、大した内容じゃない。やるせない気持ちと共に、携帯電話をソファに放った。

「まあ、今までバレンタインにあげてなかったしね。あげるとも言ってなかったしね。仕事に追われて連絡出来ないことも、今までだって何度かあったしね」

    誰もいないリビングで、声に出してそう言ってみせた。自分の言葉が酷く空々しく響いて、余計惨めに感じた。
    罰が当たったんだろうか。匪口なんかにチョコレートをあげたから、匪口なんかに優しくしたから、匪口なんかに友情を感じてしまったから、大切に感じてしまったから。余所見をしたから、兄さん達が私を見てくれなくなってしまったのだろうか。
    そんなことはあり得ないと分かっていながらも、想像は止まらない。
    もし、兄さん達が私の事を嫌いになったら。私はどうやって生きていけばいいんだろう。兄さん達の役に立つために生きて来たのに、兄さん達に要らないと言われたら、私はどうすればいいんだろう。

    考えるだけでどうしようもない寒さが襲いかかってくる。死んだ方がましだ。自分で自分の肩を抱き込むが、一度芽生えた恐れはなかなか冷めてはくれない。

「あと少しだ。卒業まであと少し」

    卒業まで耐え忍べば、兄さん達と同じ会社に入れる。そうしたら、また一緒の時間が増えるし、それに。

    こんな孤独を感じる事もなくなるはずだ。

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