コイン

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「ほら、この通り、犯行カードの1行目になるのです。十数件の犯行で、犯人はこのパターンを繰り返しているんです」


 この法則で、弥子ちゃん達は次は大川公園だ、と読んだわけか。ってことは……


「次は、Qのつく建物か……」
「この国で“Q”が頭文字の名前がつく建物は非常に珍しい。
おそらく今回でこのパターンは終わる」


 笛吹が何かに気付いたのか、ハッとして後ろを向いた。


「気付いたようですね? そう――次の標的は、クイーンメアリーズホテル70階です」


 クイーンメアリーズホテルは、外資系企業を中心に3年ほど前に建てられた巨大ビルだ。なるほど、最後の標的にふさわしい。


「さぁ――あなた方の自由ですよ? 先生を信じてあのホテルに何らかの対策を構じるか……それとも信じずに、大惨事の可能性を指を咥えて見てるのも、もちろんアリですが」
「……笛吹さん」


 筑紫が珍しく口を開く。


「ヒステリアがもしも本当にこの場所をターゲットにしてるなら、今までの爆破場所とは規模が違いますね」


 笛吹は何も言わない。


「もしもここに奴の可能な最大限の爆弾を仕掛けられたら、それこそ大惨事だ」
「……今日はまたよく喋るな、筑紫」
「……すいません」


 彼は舌打ちをすると、「確かにあのガキの推理は一見、筋が通ってはいるが、所詮は推測の域を出ていない」と認めたんだか認めていないんだかよく分からない発言をした。


「これだけの巨大な建物を爆弾から警備するのに、どれだけの金と人がいると思う? 
確証のない推理を信じて大量の警官を投入するなど、管理者の私からすれば愚の骨頂!」
「でも笛吹、なんだかんだでここにきたアンタも、次にこがターゲットになる可能性……否定しきれてないんだろ?」


 俺は静かに口を開いた。彼の苛立ちが手に取るように分かる。


「だけど責任の大きい立場だから、軽々しい判断は下せない」
「……」


 笛吹が何か言いたげな顔をした。


「俺でよけりゃ何かしら対策練ってみるけど? 何も背負ってない身分だし「笹塚!!」


 これ以上は何も言えなかった。ものすごい形相の笛吹に胸倉を掴まれたからだ。


「お前が私を知ったような口を叩くな!!」


 掴んだ胸倉をガタガタ揺らし、吠える。


「私がここまで来るのにどれだけの重責を負ってきたと思ってる?!!」


 俺は――何も言わなかった。何も言えなかった。


「あのガキみたいに……七瀬ユウみたいに、途中で私との勝負を投げ捨てて逃げ出したお前に、責任の何たるかが分かってたまるか!!」


 笛吹の目には、怒りと、ほんの少しだけ、哀しみが混じっていた。




――「ねぇねぇ、お兄ちゃん達何やってんの?」
――「将棋だよ」
――「ふはははは、ガキにはまだ早いがな」
――「そんなことないもん!」
――「じゃあこの漢字読めるか?」
――「と……とびぐるま?」
――「ふはははは、やっぱりガキだな!!」
――「大人気ないよ、笛吹。5歳の子にこんな漢字読ませよう、だなんて」
――「……」
――「筑紫!
何気に非難するような目で見るな! ……と、とにかく、お前みたいなガキはオセロで十分だ!!」
――「オセロ?」
――「ふはははは、感謝するがいい。俺が直々にオセロを教えてやろう!」




――「笹塚、あのクソ生意気なガキんちょはどこだ? 前回の勝負から、もう1か月にもなるか、たまには構ってやらんとな!」
――「構ってもらわないと、の間違いじゃありません?」
――「なっ……反抗期か、筑紫?! あれは負けたんじゃないぞ! わざと負けてやったんだ! 今日、それを証明してやる! ……笹塚、何している! さっさとユウを出せ!!」
――「ユウは施設へ引き取られた」
――「な、何馬鹿なことを言ってるんだ」
――「……二週間前、あいつの母親が行方不明になった」
――「!?」
――「状況から見て、死んだと考えた方が妥当なんだそうだ。あいつは施設の場所を俺に言わなかった。きっと、それだけ切羽詰ってたんだろう」
――な、何をわけのわからないことを言っている? アイツは……俺に、こう言ったんだ! 次はわたしを負かせてみせてよねって、あの生意気な笑顔で! だから負かせにきてやったのに……
――……
――…一体どこにいるんだ、アイツは!!
――……
――ちくしょう!!
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