コイン
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「……で、どうするの?」
ユウが口を開く。私は意識を無理矢理現実に戻した。
「締め出されちゃったけど」
「確かに、こういう状況でユウを使っても逆効果だってことが分かったしな」
「わけ分かんないよ」
ユウが不満気に溜め息をつく。
「何で弥子ちゃんじゃなくてわたしにあんなに言うわけ? あんなの不平等だよ」
私には分かる。笹塚さんは、ユウのことをとても心配しているんだ。
「……まぁいい」
ネウロが邪魔な髪の毛をさっと手で払った。
「こちらには知名度も実績もあるのだ。どうとでも割り込んでいける。知名度といえば――」
「ヒステリアも有名だよね。まあ、懸賞金はかかってないけど」
ユウはよっぽど懸賞金にこだわっていると見える。苦笑いが浮かびかけた。
「あぁ。みすみす逃がせる獲物ではないぞ……」
――そう。無差別連続爆弾魔・「ヒステリア」は、ここ最近の不穏なニュースの中心にいる犯罪者だ。現在の話題度ならXをも凌ぐ。建物・人間……対象も規模もバラバラな無差別爆破で多くの死者を出している。
そして、決まって現場に残されるのは、自分の仕業を示す、金属製の犯行カード。起爆方法も実に様々で、さながら自分の技術をひけらかしているようでもある。
「……でもさ、ネウロ」
私はネウロの服の袖を引っ張った。
「今日はおとなしく帰った方がいいんじゃない? なんかあの人、かなり私達を敵視してるみたいだよ」
「まったく。弥子ちゃんは一体あの人に何したの?」
「貴様こそ、あいつに何したのだ?」
ネウロがにやにやしながら、私の代弁をする。
「随分ご立腹の様子だったが」
「あぁ、あの人?」
ユウもニヤリと笑い返した。
「小さい頃、わたしにオセロを教えてくれたんだよ」
あー、なるほど。昔オセロで遊んで負けたわけか。プライドの高そうなあの人はきっと、幼かったユウにボロ負けして悔しかったんだろうな。
「とりあえずここは笹塚さんの言う通りさ――ってあれ、いない」
しかも、腹立つ身代わり――“これでも食っていろ”と張り紙された生ゴミ入りのゴミ箱――が置いてある。私は腹を立ててゴミ箱を覗き込んだ。案の定食べられそうなものは何一つなかった。
ふと熱のこもった声が耳へ飛び込んでくる。はっとして顔を上げれば、警察の円の中心で、笛吹さんが推理をしているのが見えた。
「考えても見ろ。今回の爆弾は、この携帯電話に組み込まれていたんだぞ」
周囲の警察に、焼け焦げて使い道のなくなった携帯を示す。
「建物に置いたり、他人の鞄をすりかえたりするのとはわけが違う。組み込むには長い時間を要するハズだ。つまり、たまたま被害者と居合わせた程度の者に、この犯行は不可能!」
うん、まぁそうかも。聞いてみれば何となく腑に落ちる説明だ。
「長い時間一緒にいて改造のチャンスを狙えるような、顔見知りのセンが濃いということだ。そして、この犯行カード――」
そう言うと、次に笛吹さんはカードを取り出した。
「衆人環視の中これを置いた度胸は褒めてやるが、今回はこの狭い店内を選んだのが運のツキ。必ず誰かに姿を目撃されているハズだ!」
「いやいや監視カメラ覗けば一発じゃん」
確かに。ぼそりと呟くユウに、心の中で同意する。まだ気まずいので、口には出さないけど。