コイン

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「うちの学食、全般的にレベル高いんだけど、特にこのカツカレーは都内随一のクオリティなんだよねぇ……」


 フォークで突き刺したカツを見つめ、弥子ちゃんがうっとりと溜め息をついた。そっか、そりゃ良かった、とあいづちを打った後、叶絵ちゃんが「でも、」とげんなりした表情を浮かべる。


「食堂中から視線浴びてんだよね。特にあんたが有名になってからひときわ」


 確かに、とわたしはうなづく。弥子ちゃんが食堂でこんなに注目を集めたのは、彼女が初日に全品2皿ずつ注文した日以来だ。しかし、仕方がないこととも言える。なんていったって弥子ちゃんは、かの有名なアヤ・エイジアの殺人事件を暴いた、今をときめく女子高生探偵なのだから。


「でも、ここまで見つめられちゃ、落ち着いて食事することもできないよね。責任取ってどうにかしてよ、弥子ちゃん」
「どうにかって何よ」


 わたしに対して突っ込みを入れると、弥子ちゃんは「別にいいよ、もう」とカツカレーを頬張った。


「私は人からの視線とか、そういうの、気にしない事に決めたの。この食堂でお昼したくてこの高校受験したのに、食べなきゃ色んな努力が無駄になるよ」
「へ?」「は?」


 叶絵ちゃんとわたしの声が同時に上がる。叶絵ちゃんが震える声で、「弥子、あんた……」と口を開いた。


「まさかそんなアホまるだしな理由でこの都内有数の難関校選んだの?」
「当たり前じゃん。高校って学食で選ぶもんでしょ?」
「それは当たり前を冒涜した発言だよ。今すぐ当たり前に謝って。土下座で」
「何て横暴な」
「いや、土下座はしなくていいけどさ、」


 叶絵ちゃんの顔が引きつっている。


「それ、まじな話なの……?」
「メッチャ大変だったよぉ。私立だから親にも頼みこんでさぁ……」


 弥子ちゃんの食事の合間に漏れる言葉が、肯定をあらわしていた。叶絵ちゃんは確か、地元の中学でトップの成績を収めていたという噂を聞いている。だから、こんな下らない理由で超難関校への入学を決めた弥子ちゃんが信じられないのだろう。わたしはくすっと笑った。


「面接の時、志望理由はなんて言ったの?」
「別に、そのままだけど」
「よく落ちなかったね」
「うん、まあ、なぜか若干苦笑いしてたけどね」


 そりゃするだろ。叶絵ちゃんと目配せしあう。


「ところで叶絵ちゃんは何でこの学校に入ったの?」
「有名校だから、入学したらモテるかと思って」
「あ、叶絵ちゃんも弥子ちゃんと五十歩百歩だね」
「なんだと」
「まあまあ落ち着いて叶絵ちゃん」
「じゃあそういうあんたは、どうしてこの学校に入ったのよ」


 叶絵ちゃんが食い下がる。わたしはへらっと笑った。


「受けてない」
「え」


 二人の目がぎょっと見開かれた。
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