コイン
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「ユウ、吾代さん……」
探偵が苦笑いを浮かべる。
「カジノとかギャンブルとか……この国じゃ違法なんじゃなかったっけ?」
「分かってないな」
ユウが探偵にニヤリと笑いかけた。
「ちょっとくらい危険じゃなきゃ、面白くないでしょ」
「まあ、ユウの言いたいことは分かるぜ」
俺はとあるスロット台に座りながら、口を開いた。
「遊びは危険な方が燃える、だろ? って、いねーし……」
振り返っても、ユウの姿はどこにもなかった。
「はは……ユウ、すぐどっか行っちゃうもんね」
探偵は苦笑いを浮かべ俺の隣に座ると、興味津津に台のボタンに触れた。
「へぇ、私本物は初めて見た。確か、数字が揃えばいいんだよね?」
「……まぁそんな感じだな」
「えーっと、お金を入れて……うわっ! 光った!」
派手な音楽と共に光を放つ台を見、身体をのけ反らせる。
「当たり前だろ、金を入れたんだから」
あまりにも初心者な反応に、俺は溜め息をついた。
「ったくよぉ、おまえ、ユウのダチなんだろ? あいつに連れられて、こういうところに連れてこられたこととかなかったのかよ?」
「あるわけないじゃん」
探偵の手が、まるで、ボタンを押すタイミングを計っているかのようにボタンの上で右往左往する。
「出席番号も近くないし、趣味だって特に共通点があったわけでもないし。今、こんな風に一緒に遊びに行ってること自体が奇跡だよ」
そうだよな。桂木と七瀬。学校での出席番号だって遠い。探偵は特別ゲームが好きでもない。ユウだって、特別食べることに興味があるわけではないんだろう。趣味も性格も全然違うこの2人は、一体どうやって仲良くなったんだ? 好奇心が静かに頭をもたげた。
「お前らが仲良くなったきっかけって、なんだ?」
「きっかけ? そうだなぁ……」
スロット台から目を放し、俺の方をぼんやりと見つめた。
「――やっぱ、アヤ・エイジアの事件かなぁ」
「アヤ・エイジアァ?!」
世界的シンガーソングライターであるアヤ・エイジアが、2人のマネージャーを自殺に見せかけて殺害した事件は記憶に新しい。更に、探偵と化けモノの知名度が全国区になったのも、この事件を解決したからにほかならない。要するに、アヤとこいつらは切っても切れない関係にあるってことだ。そして――
「何でそんなに反応するの――あ、そっか、吾代さん、ファンだったんだもんね」
「あぁ。それに、ユウもな」
――ユウも俺も、アヤのファンだった。
「ファンっていうか……仲のいい友達みたいな感じだったと思うけどなぁ」
「友達ィ?!」
え、知り合い?! まじかよ! そんなこと、あいつ一言も言ってなかったぞ!
「うん。なんせ、アヤさんが一番最初にストーカー被害の相談したのだって、ユウだしね」
「ストーカー?!」
探偵の口から、思ってもみなかった言葉がポンポン飛び出してきた。世界的歌姫のファンの1人だっただけのはずのユウのイメージが、壊れていく。まるで、ユウが俺から急に遠ざかっていくような、そんな錯覚を覚え、「おい、探偵」と俺は焦って口を開いた。
「その話、もっと詳しく聞かせろ」
「私達のところにアヤさんが来たのは、警察に自殺って断定されたマネージャーの死の真相について、もう一度調べ直して欲しかったからだったの」
でも――2人を殺したのはアヤだったんだろ? 下手に調べ直したら、自分が殺人容疑で捕まっちまうじゃねーか。頭の中が疑問符でいっぱいだが、黙って話の続きを待った。
「で、用事があるってことで、アヤさんの事務所の方で話を聞かせてもらうことになったの。で、その用事っていうのがストーカーのことについてで、」
「そこでユウと出会ったんだな?」
「……まぁ、ユウがクラスメイトからお金巻き上げてたり、校長室の家具全部、勝手に質屋に入れたりしてたから、全然知らなかったわけじゃないんだけどね」
……そんなことしてたのか。苦笑いが浮かんできた。
「確かに、実際に話すのは初めてだったなぁ」
――「アヤさん、遅いよ。七時には来るって言ったじゃない」
――「ごめんなさいね」
――ま「ぁ、遅延料はマネージャーの三木さんに後で請求するとして……ところで、そちらは?」
――「探偵さんよ。私立女子高生探偵の」
「そうそう、最初ユウったら、私の顔見てもクラスメイトだって分からなかったんだよ? 酷いよね」
――「へぇ。はじめまして、七瀬ユウです……って、どっかで会ったことない?」
――「……私達、同じクラスなんだけど」
――「んー…そうだっけ。あー、ああ、そう言えば、女子高生の皮を被った四次元胃袋少女が同じクラスにいた気がする。そうだ、確か、弥子ちゃんだ」
――「……」
――「何よ」
――「……治験って知ってる?」
――「あれ、もしかして怪しげなバイトさせようとか思ってる?」
「……で?」
俺は話の先を促す。
「ストーカーの話はどうなったんだよ?」
「あぁ、捕まえたよ。オトリ作戦でね」
――「オトリ?!」
――「そう、オトリ。誰かがアヤさんに変装して、近付いた不審者を仕掛けたトラップで捕まえるの。大丈夫だよ、どうせ頭のネジが外れててまともな認識力持ってないから」
――「そう…なのかな」
――「うん、サングラスとカツラくらいで結構バレないもんだよ」
――「…へぇ」
「待て、まさかそのオトリ、ユウがやったのか?!」
「うぅん、私」
良かった。俺は僅かに安堵する。「あれ、私だったら良かったわけ」と探偵がむくれた。