Drowing You.
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結果、先生に女子更衣室へ男子を入れたと勘違いされたわたし(無実の罪)と男子三人(有罪!)は、仲良く反省文を書かされることになったのだった。
「うぅっ……」
「いい加減泣き止めよ。悪かった、俺たちも悪かったから」
しゃくりあげるわたしを必死でなだめるナポレオン。
「でも、正直見てても全然恥ずかしくならなかったな」
一休が余計なことを言う。
「何つーか、小学生の裸見てるみたいでさー。ちっこくて可愛いなとは思ったけど、やっぱりエロさがモゴッ」
「黙れお前」
ナポレオンが一休の口をふさぐ。
「いくらしおんが男より胸がないという奇跡的な体を持っていたって」
「胸がないわけじゃないもん!」
ムキになってわたしは言い返す。
「見てるだけだから分からないんだよ! 触れば分かるよ、触れば!!」
そう言うと、証明してみせると言わんばかりナポレオンの手を掴み自分の胸へ持っていこうとした。ナポレオンが顔を赤くする。
「いい、いいっ! 大丈夫、大丈夫だから! お前の胸がマイナスに等しくても、俺はちゃんとお前の上半身に興奮したから安心しろって! な!」
「きゃー、ナポレオンのエッチ!」
一休がふざけた声を出す。わたしは鉛筆を持つ手は動かしながらも頭は机に突っ伏した。
「大丈夫だしおん。胸が小さい女を前にして多大なるリビドーを感じる人間だっているのだから。それはもちろん個人の趣向にもよるけ」
「お前もいい加減にしろっ!」
ナポレオンがフロイトの頭に鉄槌を食らわす。そしてわたしに、フロイトの言うとおりだ、と慰めるように言った。
「胸が小さい女が堪らなく好きって奴もいるんだしさ、そんなに悩むなって」
「胸が小さい人が好きって人のことなんかどうでもいいよ!」
「じゃあ何が嫌なんだ?」
逆に言われて、うっと言葉に詰まる。言うべきか迷うと、早く言え、と小突かれた。
「……うー」
「大丈夫だから。なっ?」
散々ぐずった後、やがてわたしは小さな声で口に出す。
「君たちに……頭も体も胸も発育不良だって思われること」
偉人のクローンは大体皆、一つ以上の能力に長けている。その中にいるわたしは、モーツァルトの言うとおり、確かに凡人だ。彼らがモーツァルトのように、わたしに悪意を持って凡人呼ばわりするとは思えない。けれど、何一つ長所のないダメな奴だと思われ、呆れられるのはやっぱり悲しいし、嫌だ。
そう言った傍から、ナポレオンが呆れたような表情になる。
「ほらー! そういう顔!」
やっぱ話さなきゃよかった。そう後悔するわたしに、馬鹿か、と頭をはたく。
「誰もお前のことそんな風に思わないから安心しろ」
「どうだろうね」
フロイトが口を挟む。
「君はクローンじゃないから、とそう思う人がいることは事実だ。モーツァルト以外にもね」
おい、フロイト! と一休が諌める。それにかまわず、「ただ、」とフロイトが話を続けた。
「君の友達は君にベタ甘だからね。そんなこと微塵にも思わないと思うよ。君にしてみたら、それで充分なんじゃないか」
わたしは目を上げて、フロイトを見た。彼は俯いて反省文を書き綴っている。髪の毛から少し出ている耳が心なしか赤い。
「フロイト」
「……」
「フロイトー」
「……」
「フロイトったらー」
「……なんだよ、うるさいな」
顔を上げずに答える。
「君も?」
おそるおそる問いかける。
「君も、そう思ってくれている? わたしのことを友達だって?」
彼のフーと息を吐く姿から、どこかそわそわした印象を受ける。
「……そんなアホみたいな心配してる暇があったら、さっさと反省文書きなよ」
彼が照れていると分からないほど、わたしは馬鹿じゃない。
「……きゃああああああ!」
わたしはこの喜びを表現すべく、大声で叫びながらフロイトに抱きついた。
「ちょ、おい、しおん!」
「フロイト! 大好きー!」
その腰にぎゅーっと抱きつきそう叫ぶ。ナポレオンが落ち着け、とばかりにわたしをフロイトから引き剥がした。
「女の子がそう簡単に男に抱きつくなって。特にムッツリスケベなフロイトなんかには」
「もっとしおん発達した胸の持ち主ならよかったのに。……」
「黙れって!」
「あイて」
ナポレオンがフロイトにはたかれた本当の理由が、その後「でも確かに体つきは柔らかくて気持ちよかった」と呟いていたからだということを、わたしが知るのは随分先のことになる。
To be continued...