コイン
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あの時の笛吹は猛烈に怒っていた。俺が同じ事をした時、どんな様子だったかなんて簡単に想像つく。それを知っていて、俺はあいつの前から姿を消した。友人を捨てた、と思われてもおかしくなかった。実際俺の行為はそれと等しい打撃を笛吹に与えた。だから――何も言えるハズがなかった。俺には何かを物申す資格さえ、ない。
「まぁまぁ二人とも」
助手の感じのいい声と、ヤコちゃん渾身の頭突き。これが、俺達の気まずい空気をぶち壊しにした。
「先生が怒っていらっしゃいますよ? “私のこの頭を信じないのか”とね」
頭蓋骨に響く鈍い痛みに、思わず顔をしかめる。
「あなた方がどのように受け止めようが、次のヒステリアの爆破場所がここである、という事実は変わらないのです。残る問題は、その爆弾を“いつ”“どのような”方法で置くか、です」
笛吹が痛む頭を押さえて口を開きかけたので、俺は慌てて「わかったわかった」と言った。これ以上口論は聞きたくない。
「あとはこっちでやっとくから。おたくらに出来ることはここまで。帰りな」
「あっ! また追い出そうとしてる! 私が何したっていうんですか?!」
「頭突き」
シッと手で追い払ってみせると、石垣に2人を連れていくように指示した。
「……やっぱり君はあの素人の言うことを真にうけてるというわけか」
それを見ていた笛吹が鼻を鳴らす。俺は「まーな」と肩をすくめた。
「闇雲に動くよりは確率が高そうだと思うけど」
「そして奴等を追い出しといて手柄だけ横取り、か。まったく、現場の奴はどいつもこいつも汚ならしいな!」
掃き捨てる彼の言葉には、迫力はあるが嫌悪感はない。 笛吹は俺と真正面から向かい合った。
「……いいだろう。では、君は精々ここを調べてみればいい。以後、私はこの件には関与しない! ……私のいいたいことは分かるな?」
「……あぁ」
これは一種の賭けだ。ここで爆発したら、情報を得ていた笛吹は責任を免れない。だが、もし別の場所で爆発したら、俺は――
――「さっ、表か裏か?」
――「分かるわけないよ! 見えなかったもん!」
――「馬鹿、見えてたらコイン・トスの意味ないだろ」
――「じゃあ……どうやって?」
――「そこは……ま、取り敢えず好きな方を選んどきゃいいんだよ」
――「好きな方選ぶだけじゃ賭けに勝てないじゃん」
昔交わしたユウとの会話を思い出し、俺は口元を緩めた。本当にそうだな。好きな方を選ぶだけじゃ、賭けに勝てるかどうか分からない。けれど、あれこれ考えても仕方のないわけで、だったら悩まずに好きな方を選んでしまった方がいいと俺は思う。ところで、じゃんけんという偶然のゲームを制御できてしまうユウの能力は、コイン・トスにも適応されるのだろうか。訊こうとしても、ユウの姿はここにはない。何だか少しだけ寂しい気持ちになった。
to be continued.
(20110129)加筆修正完了