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□dress up in love(5)
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どうも。山崎退です。
いきなりですが、最近うちの社の副社長が不機嫌です。
……いや。いつもピリピリしている爆弾みたいな人ですが、この2週間、様子がおかしい。
「副社長…副社長」
「…………」
「副社長!!」
「……な、なんだ、いきなり」
いきなりじゃありません。さっきから何度も呼びました。
最近ずっとこの調子です。
ぼーっとしたり、かと思えば、突然テンパってみたり、この人らしくありません。
「お疲れなんじゃないですか?」
と俺は声をかけた。
副社長とモデルの両立が大変なことは分かるが、プライドの高いこの人は疲れた時に疲れた顔を見せるのが嫌いだった。
だから、ここ最近の異変は本気でおかしい。
多分ただ疲れているだけなら、こんな風にはならない。
「………なんでもねぇよ。もう上がるから車回してこい」
そういって数枚の書類をアタッシュケースに入れて副社長室を出た。
土方さん。
俺が何年アンタの秘書やってると思ってるんですか。
なんでもないなんて嘘だ。
しかし、そんなこといえるはずもなく俺と土方さんはエレベーターに向かった。
眉間にシワを寄せる土方さんの横顔を盗み見る。
こちらまで苦しくなりそうな、悩ましげな表情。
エントランスに来るとエレベーターを待つ2人の先客がいた。
「社長」
「トシ、山崎。今帰りか?」
「あぁ」
近藤さんが快活に笑いながら話しかけてきた。
社長という重役にありながら、決して威張らず傲らずの人望の厚い人で、みなが尊敬している。
「それに万事屋の旦那」
「よぅジミー」
「ジミーって俺ですか? 地味だからですか。地味な俺だからですか」
「そうだよジーミン」
「語呂悪ッ!! どっかの谷に住む妖精みたいに呼ばないでくださいよ」
数ヶ月前からの契約デザイナー。いつからか万事屋という徒名がすっかり定着してしまったが、呼び方など気にもとめない気安い人だ。
「久しぶりだね土方くん。2週間ぶりくらいかな?」
「……そうだな…」
旦那に声をかけられた土方さんは明らかに困惑していた。
困惑?
決断力のある土方さんが?
何に困っている?
そういえば2週間といえば、ちょうど土方さんがおかしくなった頃ではなかったか。
◇