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□ランチにいこう
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「ポケットの位置、袖の縫い目か……気になるとこは以上か?」

「うん。他のとこは平気なんだけど袖だけ縫い目が荒く見える。サンプルでこれだもん。量産したらもっと目立つよ」

『Truth』本社に服のサンプルが届いたと連絡があり、銀時は急いでやってきた。

サンプルチェックさえ通れば、すぐにでも生産に入れる。

流行を先駆させるアパレル業界はスピード勝負だ。売れると思ったものはすぐに出さなければ他社の製品に先を越されてしまう。

「それじゃあ、こっちはクリアってことでいいな。山崎、ジャケットとスカートは生産に入る。第2工場と第3工場に連絡しろ」

「はいよ!!」

銀時と一緒にサンプルのチェックをしていた土方が秘書である山崎に的確に指示を出す。

「それからワンピのサンプルだが半日ほど遅れると連絡が来たから、そっちは明後日になる。明後日の2時にここに来い」

「………へいへい」

返事をした銀時だが、その声は少しばかり不満の色である。

株式会社『Truth』副社長。

責任ある役職の人間として忙殺された彼とは仕事の打ち合わせでしか逢えない。

土方と『取り引き』をしてから1ヶ月。

それからどんどんと欲の出てきた銀時は『副社長』ではない土方のことが知りたくてしょうがなかった。

「それじゃあ、今日はこの辺で…」

といつものようにクールな表情の土方。

が、今日はいつもとは違っていた。








ぐきゅるぅぅぅぅぅ…






土方の腹の虫が鳴いた。

「あ」

銀時は感嘆詞をもらしてしまった。そしてその直後に後悔する。

(なんで声出しちまったんだ俺ェェェェェ!!!!

このタイミングじゃ『聞いちゃった』って言ったようなモンじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!!!! 聞かなかったことにするっていう大人の選択肢を自分から踏み潰しちまったぁぁぁ!!!!! 土方ごめん!!!!!!!!)

とコンマ数秒の間に胸中で悶絶する。






しかし土方の顔を見た瞬間、そんな悩みは吹っ飛んだ。









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