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□dress up in love(1)
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「契約条件はこれで以上か?」

よく言えば精悍。悪く言えばゴリラに似てるといえるその男が快活に言った。

男の素性や性格に興味はないが、ディスクワークよりも農作業が得意そうな垢抜けていない彼が、低迷気味のアパレル業界で頭角を現してきたメンズブランドの社長とは、銀時は未だに信じられなかった。

来賓テーブルには、この会社のブランド服のデザイン画やサンプルの写真が扇状に広げられている。

メンズブランド『Truth』

かっちりとしたスーツからカジュアルまで扱っている。

そのデザインはシンプルなものが多い。しかしシンプルであるのに、そこには『Truth』独特の色というものがあった。

はじめて銀時が『Truth』の服を見た時、面白いと思った。

友人が着ていた黒のスーツ。

スーツとは往々にして重苦しく見える。

だが『Truth』は、光沢や布の性質をうまく利用していた。

銀のカフスやポケットの位置も計算されたものだと分かった。

面白い。

それに、面白そうだ。

まさか、あの『Truth』が自分に仕事を持ってくるとは思っていなかった。

駆け出しのデザイナーである銀時は数社のアパレル社と、その時々で契約を交わしてデザインを提供している。

しかし、今までやってきたデザインはレディースが多かったし、副業でコーディネーターをしているが、担当しているのは女性なので多少のコネクションがあってもメンズとは繋がらなかった。

「うちのホームページの書き込みに女性からの意見が増えてきたんだ。

『彼氏のジャケットが好きで借りて着てます』とか『メンズだけどデザインが可愛い』とか。そこで次の春物と一緒に、試験的にレディースを生産することになったので、坂田さんにはレディースのデザインを担当してもらいたいんだ」

代表取締役・近藤勲。

彼自身はファッションのファの字も知らなさそうな男だが、ユーザーの声をいち早く察知して、この不景気にも関わらずラインを増やそうと英断できる度胸。

確かに社長の器らしいと、銀時はニヤリと笑う。






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