Chocolate Candy2

スウィート・デイズ
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手持ち無沙汰な午後10時。

ユウジお兄ちゃんは何やら
パソコンで作業をしてて
私はというと読書にも飽きて
(というかまぁ、最初から
ユウジお兄ちゃんに見惚れてて
あまり読めてなかったけれど)
暇な時間を持て余していた。

はあ、ため息を吐きかけて
済んでのところで押し留めた。
そんなところが見つかったら
絶対彼に気を使わせてしまう。

構ってもらえなくて寂しいのは
やっぱり正直あるけれども
彼の邪魔は勿論したくないし
一緒にいれるだけで嬉しいって
いうのも嘘じゃないから。


(なぁんて。私ってば健気!)


思わず緩まる口元を引き締めて
投げ出していた手帳を開く。

まぁ、開いたからといって特別
それに用事がある訳でもなく。
何の気なしにぼんやりと
手帳を眺めればぐるぐると
ピンクのペンで記された
特別な日が目に入った。


「もう1年か……」


心の中だけで零したつもりの
言葉は気付けば音になってて。
ユウジお兄ちゃんはパソコンの
液晶から顔を上げて私を見た。


「どうしたの?」

「え、ううん。や、私たちが……恋人、に、……なってから、もう1年かって思って」


何となく気恥ずかしくて
少し口ごもりながら答えれば
ユウジお兄ちゃんは ああ、と
納得したように頷いて
ソファーに身を投げ出す
私の横へと腰を下ろした。

私の髪を大きな手で愛しそうに
撫で付けて私の手帳を覗き込む
ユウジお兄ちゃんはきっと
私がこの瞬間どんなに幸せを
感じているかなんてまったく
わかっちゃいないんだろう。


「そういえば、そっか」

「……そういえば、って何?」


むっとして唇を尖らせる。
私にとってこの日はすごく
特別でそれは彼にとっても
同じだと思っていたのに。

裏切られたような心地で
彼を軽く睨み付ければ
記念日のことじゃなくてね、
なんて困ったように笑った。


「そういえば、まだ1年なんだなって思ったんだよ」


ユウジお兄ちゃんの言葉の
意図するところが読めなくて
首を傾げてみせれば彼は
幼い子を宥めるそれみたいに
私のおでこにキスを落とした。


「なんとなくね、」

「うん?」

「1年よりも、もっとずっと一緒にいるような気がしたんだ」


不意打ちの、その言葉と
満面の笑みに私の顔が一気に
熱を持ったのがわかった。

だって、それってさ、多分
私がユウジお兄ちゃんの隣に
いることが自然で当たり前に
なったってことでしょう?

何年も一緒にいるみたいに
彼は私に心を許してるって
そういうことでしょう?

嬉しいんだけど嬉しすぎて
素直にそれを言うのは
なんとなく憚られて。
代わりに緩む唇を尖らせた。


「……俺さ、」

「うん?」


急に頭上から掛かった声に
顔をそろそろと上げれば
青く穏やかな瞳と目が合った。


「君といる今が生きてきた20年の中で、いちばん幸せ」


ありがとう。
ユウジお兄ちゃんは何かを
噛み締めるように私に囁いた。


「ユウジお兄ちゃん、」

「ん?」

「あの、……私、も、いまが、17年間でいちばん幸せ、だよ」


そう言うと彼は嬉しそうに
口元を淡く綻ばせた。

そういう言葉は慣れてないから
やっぱりとても照れたけれど。

何だか。

さっきの言葉を聴いたら無性に
私の気持ちも伝えなければ。
そんな焦燥に駆られたのだ。

でもやっぱり恥ずかしくて。
ゆるゆると再び手帳へと視線を
落としかけたところでちゅ、と
頬に温かな感覚がした。


「…ゆ、ユウジお兄ちゃん!」

「覚悟しててね」


「へ?」

「これから、もっともっともっと幸せにするつもりだから、……覚悟しててね。お姫様」


ちゅ、最初は恭しく手の甲に。
そして今度は熱く唇に。
王子様のキスを受けながら
胸の奥がきゅうう、と
甘く締め付けられるように
満たされていく感覚がした。

とろり少し重たい瞼を開ければ
ユウジお兄ちゃんが淡く
微笑んだのが見える。


(……どうしよう、)


これ以上しあわせになったら
とろけてしまいそう。
なんて馬鹿なことを考えながら
私は彼の唇へそっと口づけた。


スウィート・デイズ
(そしてまた続いてゆく)




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