Chocolate Candy

やさしさが溢れてる
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「どーろこーつーほーいはん、なんだって」

「……は?」


ボールを磨いていた
手を止めて、きょとんと
した表情の雅弥くん。
私が初めて聞いたときと
おんなじ反応だ。
思わず笑みの零れそうな
口元を再度結んで
私は彼に向きなおす。


「だから、自転車の二人乗り。道路交通法違反になるんだって」

「……はぁ、」

「修一お兄ちゃんに怒られちゃった」

「ふぅん……、それで?」


話の半分も理解してない
ような相槌を打ちながら
雅弥君は話を促す。

それもそうか。

雅弥くんからしてみれば
こんなことでもなきゃ、
一切興味ないこと
だろうからなぁ。
なんて私は一人
納得して言葉を続けた。


「それで、だから私、明日から歩いて学校行くね」

「あー……、って、え?」


「車で登校ってやっぱり落ち着かないもん。あ、そうだ! 雅季くんと一緒に行かせてもらうよ」

「な ん で !」


思いきり眉を潜める雅弥くん。
あれ、私なんか
変なこと言ったかな。
それとも上手く
伝わらなかったのかな。


「え? だから二人乗りは…」

「……じゃなくて」


雅弥くんは少し
イラついたように
手の中のボールを
少し乱暴にベッドに放った。

極めて不機嫌げだけれど
原因は見えない。
おどおどと雅弥くんを
見上げると、彼ははぁ、
と思い切り見せ付けるように
大きなため息をついた。


「なんでそれで急に雅季と学校に行くことになるわけ?」

「だって……私、自転車持ってないし。一人で行くのも寂しいじゃない」


「だから!」

「?」


「……俺と行けばいいだろ?」

「え、でも……、自転車」


「……だから、俺も歩いてくっつってんだろ!」

「え……」


「お前を雅季に任せられっか」

「……いいの?」


予想外の展開に
思わず口元が緩む。
恐る恐る雅弥君を見上げると
彼は照れくさそうに
顔を赤らめて頬を掻いた。


「……寝坊すんなよ」

「……うんっ、」


「…………」

「雅弥くん、」


「……ん?」

「……ありがとう」


「別に。……俺、いつも部活優先してっけど、」

「…………?」

「でも、俺、お前のこと、きっとお前が思ってる以上に好きだからな」


「……うん。雅弥くん、」

「……ん?」


「好き」

「知ってるよ、ばーか」


その言葉はいつもの雅弥くんの
悪態だったけれど、その端に
あったかいものが隠れていて。
彼の頬は真っ赤に
染まっていたから。
だから思わず笑みを零れた。


「……何、笑ってんだよ」

「んーん? 私の彼氏は優しいなって思って」


「……別に、優しかねぇだろ」

「えー、優しいよ?」

「……、もしそうだとしたら」


そう、言いかけて、
雅弥くんは言葉を止める。
どうしたんだろう。
と見上げると
すぐ間近に彼の顔。


「お前にだけ、だけどな」


更に近づく雅弥くんの顔。
キスされる。
ぎゅ、と反射的に目を瞑ると
おでこに柔らかな感覚。
ふと目を開ければ
雅弥くんは悪戯っ子
みたいな顔で笑っていた。

少し拍子抜け。

私ばっかり期待してたみたいで
少し悔しくて。
勢いのままに私は彼の
唇に自分のそれを重ねた。



やさしさが溢れてる
(そんなあなたが大好きです)




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