Chocolate Candy

祈りと月のしずく
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暗い夜空の闇の中に
ゆらゆら揺れる白い湯気。
そっとマグカップに
口をつけるとミルクココアの
甘い風味が口に広がった。

ミルクココアってなんだか
まるで彼女みたいだ。
優しい甘さで、ほっとする。

そんなことをぼんやりと
考えていると隣の彼女が
ゆっくりと口を開いた。


「瞬くん明日、誕生日だね」

「え……、ああ。そうだったかも……」


11月ももう末日。
ふと言われて考えてみれば
そうだった気がする。

ふと視線を彼女へ移すと
彼女はふわりと微笑んだ。
彼女の白い肌は
月明かりによく映えて
天使みたいだな、なんて
ぼんやり考えてしまう。


「瞬くん、なにか欲しいものある?」

「うん……?」

「いろいろ考えたんだけどね、でもやっぱり瞬くんが本当に欲しいものをあげた方が良いかなって思って」


そう、彼女は言って、
それからココアを口に含んだ。
マグカップを持つ彼女の左手で
きらり、銀色のリングが輝く。

彼女が裕次兄さんの
ものだって、証が。

ねえ。僕が本当に欲しいもの。
それは、ひとつだけなんだ。


僕が本当に欲しいのは、
君だけなんだよ。


けれども左手に
そのリングをはめる君に
裕次兄さんの横で
幸せそうに笑う君に

そんなことはとても
言えないから。


「……右手、貸して?」

「え? う、うん……」


そろりと差し出された
彼女の小さな右手を
ぎゅ、と握り締める。
夜風に当たっていたせいか
ひんやりとつめたい。

彼女はほんのりと僕の
掌の熱が伝わったのか
やんわりと口元を緩めた。


「明日は、君の右手を貸していてくれない?」

「え、うん……いいけど。そんなのでいいの?」

「うん、それがいい……。明日は裕次兄さんにも右手、触らせちゃだめだからね?」

「ふふ、わかった。……へんな瞬くん」


彼女は何も気付かず
くすくすと無邪気に笑う。


「…ありがとう、大好きだよ」

「私も瞬くんが大好き!」


きっと彼女に僕の好きの
意味は伝わってない。
でもそれでいい。


僕は彼女の笑顔が
好きなのだから。


でも、せめて。
この想いが熱となって
彼女の右の掌をあたたかく
包み込みますように。

左の手に触れる権利のない
僕は月にそう、祈った。



祈りと月のしずく
(せめて明日だけは、ゆるして)





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