Chocolate Candy

隣どおしがいちばん自然
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「で、何が原因なの?」


眼下には、校庭。

屋上から見下ろしていた
視線を隣の彼女へと移すと、

彼女はきょとんとして
僕を見つめた。



「え? ……何が?」


察しの悪い彼女を諌めるように
頭上に手元の文庫本を
ぽすん、と落として。

はあ、とひとつ
見せ付けるように
大きなため息を吐く。


「何がじゃなくて。どうせ雅弥と喧嘩したんでしょ?」

「う……。なんでわかるの?」


わからないわけがない。
というか彼女は
皆が気づいてないとでも
思ってたのだろうか。

顔を顰めた彼女を宥めるが如く
頭に乗ったままの
文庫本で軽く叩いた。


「君はわかりやすいからね。……雅弥も似たようなものだけど」


そう。
君らはすごくわかりやすい。

いつもなら、ぎゃあぎゃあと
下らない言い合いをしながら
雅弥の自転車で登校するのに

今日は珍しく2人とも静かで。

(僕としてはそちらの方が
正直都合が良いけれど、
もはや恒例になっているものが
急になくなるというのも
妙に気持ちが悪いものだ)


僕としても正直その喧嘩には
まったく興味は持てないけれど

彼女の少し沈んだ顔は気になって今に至るのである。


文庫本を再び手元に納めて、
再び視線を校庭へと移すと
サッカーボールを蹴る雅弥と
ばちりと目が合った。



「で? ……さっきの質問の答え聞いてないけど?」

「……私、悪くないもん」


話を戻すと
むすっとして答える彼女。

……質問の答えになってないんだけど。

まあ、この分だと
どうせ雅弥の嫉妬が空回りしたとか、そんなところだろう。


「ふうん?」


適当に相槌を打って
視線を落とすと

雅弥が僕の隣の背中が
彼女だというのに気づいたのか、
ちらちらと視線を送ってくる。


ああもう、面倒臭い。



雅弥と視線がぶつかった
次の瞬間。

彼女の頬に唇を寄せた。



「……!!? ま、雅季くん!?
急にどうしたの!?」


顔を薔薇色に染め上げる彼女。

そんな彼女の頭を
愛犬にそうやるように
よしよしと撫でてやると、


……下から野犬の声がした。



「雅季! ちょ、お前……っ!!
お前そこで待ってろ!」


その声に彼女は振り返って
大きな目をぱちぱちとさせる。


「雅弥くん…!?」


こんなもんでいいでしょ。

これ以上面倒に
巻き込まれるのは御免。


僕は軽く荷物を纏めると
踵を返した。


「え、雅季くん!? …雅弥くんが来るって……」

「そうだね、君ちゃんと話しなよ」

「ええ!?」


じゃあね、とひらひら後ろ手で手を振って屋上を後にした。

雅弥とかち合わないように
道を選んで外へ向かいながら考える。


恋敵にチャンスを与えるなんて
僕も相当なお人よし。

頭がイカレちゃってるのかもしれない。


けれども、あの2人が
あんな風にいるのも
妙に落ち着かないのだ。


そう、彼らは

隣どおしがいちばん自然
(きっと僕はアイツに恋する君に恋したんだ)




→あとがき
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