Chocolate Candy

君の心に触れさせて
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とんとん。


控えめにノックする音がして、扉を開ける。


すると少し赤くなった目をした君が立っていた。



「…入れば?」



部屋の中へ招き入れると、

君は少し躊躇ってから
おじゃましますと僕の後ろをついて来た。


2人きりで話すのは久しぶりだった。


…近頃、君は雅弥につきっきりだったから。

サッカーの試合が近いだか何だか知らないけど、僕は不機嫌だった。


だから今日、君が僕の部屋を訪れたことに少なからず浮かれていて、

少々冷静さを欠いていたのかもしれない。



「で、どうしたの?」


僕は椅子に座ると君を見上げた。

君は座ることもせず、
ただただ俯いて、

そしてようやく口を開けた。



「雅弥くんと…、喧嘩した。」

「…、はあ?」


そう、僕は浮かれてしまっていたのだろう。

いつものように冷静に考えれば、
わかっただろうことなのに。


泣きそうな顔で、
雅弥じゃなく僕の部屋に来たのだから。


僕は、馬鹿か。



一気に気持ちが冷えていくのがわかる。

君の話も半分くらいしか聞こえなかった。



「…、それで、そのとき雅弥くんが…。」


なんで僕がそんな話を聞かなきゃいけないの。


暫く黙って聞いていたが、
僕ははあ、と大きくため息を1つ吐くと、

君に向きなおした。



「それよりも…ねえ、わかってる? こんな時間に男の部屋に来て。」

「…え?」



君と距離を詰める。

じりじりと君は後ずさるけれども、


壁に阻まれる。



「…、随分と無防備だと思わない?」


君を閉じ込めるように
壁に手をついて、腕を握る。


戸惑いを含んだ、
君の茶色い瞳が揺れた。


「ね、雅季くん…。悪い…冗談、だよね?」

「…黙って?」



僕は君の唇に、僕のそれを強引に重ねた。



無理やりに舌を君の口に侵入させて、
苦しそうな君に、何度も何度も口づけた。


何度目かの口づけで口に広がった、
しょっぱい、涙の味。


その味に、そっと唇を離すと、
君は泣いていて。


君の涙なんて僕は何度も見ているけれども、

それでも初めて見るような、
君の少し悔しげで憂いを帯びた…


けれども凛とした表情に、

僕は思わず、どきり、として君に背を向けた。


「…雅弥のとこにでも、行けば?」


僕は背中で君のばたばたと遠のく足音を聞きながら、



いつの間にか僕の頬には涙が伝っていた。


君の熱を未だ残した唇にそっと触れる。



違うんだ。

あんな顔をさせたいわけじゃない。



わかってる。

ただ口付けたって何の意味もないってこと。



ねえ、お願いだから。

君の心に触れさせて




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