A serial novel

□夕闇メモリズム Z
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「……ふっ…ざけんな!!」


肩にあった手が突然哲雄の首元を掴む。
ぐいと引き寄せられてテーブルが姦しい音をたてた。


いよいよもって他の客がぎょっとする。
店員も不安げな視線を送ってきたから、哲雄は今にも殴り掛かろうとする睦を連れて逃げるように外へ出た。


途中で掴む腕を振り払われようとするが、こんな往来で騒がれるのもまずい。
閑散とした駐車場が見えたから、取り敢えずそこまで移動した。


「離っ…せ、よ!!」


我慢が効かなくなったのか、睦がいよいよもって実力行使に出た。
空いた手を思い切り振りかぶり、哲雄の腕に平手打ちを叩き込む。


その衝撃で力が緩んだ隙を見て、睦が漸く哲雄の拘束から解放された。
しかしすぐさま睦の腕は再度哲雄の襟元を鷲掴み、身長差を埋める為に無理矢理引き寄せる。


「おい城沼…今更冗談だったとか言うなよ。どっちにろブッ倒すぞ」


額を突き合わせながら至近距離で睨まれた。
しかし、睦がこんなにも怒りを露わにする理由も、その“崎山蓉司”という名の人物も、哲雄にとっては寝耳に水だ。


怪訝な眼差しを睦に送ると、彼の食い縛られた歯の噛み合わせからがきりと嫌な音が鳴る。


「なぁ…なんで?なんで?何いきなりすっかり忘れてんの?名前も顔も…なんで全部……」


表情は憤怒そのものだが、声色は泣きそうだった。


「蓉司と会ったんじゃねぇのかよ…?ホームとか教室でさ。コサージュ貰ってくれたっつってたじゃん…。教室で俺がお前に声掛けたら消えたとかさ、すげぇ不思議体験話してくれたりしたじゃん」


声を掛けたら、消えた?


人が?忽然と?



その――“崎山蓉司”が?



「………」



それは、つまり。



「それなのに…何でお前……」
「…三田」
「……何だよ」
「それって……死んでるんじゃねぇの」
「…………なに」


睦の表情が変わる。
目を見開き、言葉を失っていた。
先程まで鬼のようなそれではなく、いっそ畏怖の色が浮かんでいる。


しかし、いい加減この不毛な口論も終わりにしたい。
哲雄はゆっくりと呼吸をしてから、睦の目を見て言ってやった。


「だから…死んでるんじゃないのか。その…“崎山蓉司”って奴」


しっかりと最後までは言い切れなかったと思う。
それより前に、睦の拳が哲雄の頬を打ったから。


「っ…!」


骨まで痺れて、それから痛みがじわじわと広がっていく。
たたらを踏んでふらつく足で何とか持ちこたえるが、すぐに二撃目が飛んできて呆気なく地面に膝をついた。

 
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