A serial novel

□夕闇メモリズム Z
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「…え?誰、って……」
「こいつ、知らないけど。違うクラスの奴じゃねぇの」


言い放つと睦が哲雄の手に握られていた携帯電話を取り上げる。
間違った画像を開いたのかと画面を確認していた。


しかし、その画像をじっと凝視してからゆっくりと哲雄に視線をやってから恐々と口を開く。


「……見た事、ねぇの?」
「ない」
「それなら!卒業式の日の教室とか駅のホームとか!あれは何だったんだよ!?」


いきなり激昂されて訳が分からない。
睦が叫びと共にテーブルを思い切り叩いたから、他の客からの視線を一斉に浴びた。


何について怒っているのか、何を差しているのか。
全く見当もつかなかった。



卒業式?教室?駅のホーム?



何か特別な事があっただろうか。


「……さっきから何言ってるのか…全然分かんねぇんだけど」
「………は?」


ぶわりと怒気が孕んだ声だった。
口元は僅かながらも口角が上がっているが、その瞳は底冷えしそうな程鋭い。


「…何の冗談?」
「何って…何が」
「何がじゃねぇよ。なに、お前……どうしちゃったワケ?」
「どうもこうも、どうもしてねぇけど」


真実だけを述べたつもりだったが、睦が放つ空気はみるみる険悪に、剣呑になっていく。
身を乗り出してきて、テーブル越しに肩を掴まれた。


「……なぁ城沼、お前がクソくだらねぇ冗談言う奴だとは思ってねぇ。だからさ、もっかい俺に教えてよ」
「何を」


不安定な瞳に見据えられて、胸がじとりと重くなった気がする。
睦は震える吐息をゆっくりと吐き出してから、意を決したようにその名を口にした。


「…お前が見た……“崎山蓉司”…って、どんな奴だった?」


肩を掴む手に力が入り、指が布越しに爪をたてる。
痛いと思う間よりも、睦の凄まじいまでの気迫に圧されて思わず目を細めた。



だが、しかし。



「だから…誰だよ、そいつ」



そう言うしか、なかった。



 
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