A serial novel
□夕闇メモリズム Z
2ページ/6ページ
「お、久し振り」
待ち合わせ場所であるファストフード店に入ると、睦が二つ目であろうハンバーガーを頬張っているところに出くわした。
呑気に口をもごもごと動かしながら、ひらひらと手を振っている。
「悪い、遅くなった」
「学校なんだからしょうがねぇだろ。俺メシ食ってる時って喋らないらしいし、むしろ早いぐらいなんじゃね?」
咀嚼しながら言われたから多少聞き取り辛い箇所もあったが、ごくりと口の中のものを飲み込むと次いでLサイズのドリンクで喉を潤した。
「…で、何」
「んあ?あぁ、そうそう、この前携帯のデータ整理してたらさ、いいもの見つけたんだ」
メールで送られてきた事を反芻してから、睦はにこにこと笑顔を貼り付けながら携帯電話を取り出す。
かちかちと何やら操作している間、哲雄はぼんやりと睦の機敏に動く指先を眺めていた。
「お、あったあった。これ」
にっと歯を見せながら携帯電話を差し出される。
見ると画面に駒波制服姿の睦と、もう一人が写っていた。
おそらく高校時代に携帯電話のカメラで撮ったものなのだろう。画面の端に伸ばした睦の腕が見切れていた。
「………」
「前に一回だけ一緒に撮ってさ。懐かしくね?」
嬉しそうに、しかし何処かに寂しさを含ませたような睦の物言いに引っ掛かった。
自分の姿を懐かしんでいる訳ではない。
隣に写る、この生徒に対して向けられているようだった。
黒い髪の男子校生。
特に突出した印象は無い。
強いて言えば緊張しているのか固い表情と、色白な肌ぐらいだろうか。
「…これが…いいもの?」
思わず聞いてしまった。
しかし睦は意に返さぬ様子で自慢気に胸をふんぞり返したりしている。
「お前、自分の携帯にそんなん入ってないだろ?あいつも携帯カメラで写真撮るの初めてだっつってたし」
「入ってないも何も……」
誰だよ、これ。
そう最後に付け加えると、睦の表情が笑顔のまま固まった。