A serial novel

□夕闇メモリズム X
4ページ/7ページ

たった一駅なのに、酷く遠く感じた。
流れる景色の奥に沈みかけの太陽が見える。



早く。早くしないと消えてしまう。
夜が来たら真っ暗で、“彼”の姿が見えなくなってしまう。





そんなのは嫌だ。今すぐ会いたい。



会える保証なんて、無いのに。





ドアが開いた瞬間に飛び降り、改札を抜けてまた走った。
日を背負い、路地を曲がり、人の合間を縫って。



「っは……はぁ…」



全力疾走したのだなんて何年振りだろう。
小中高の体育の時間だってこんなに必死に走った事が無い。

目の前に聳える白いマンションを見上げながら軽く息を整え、それから階段を上った。





三階まで上りきってから、気付く。



“何故三階だと知っている?”



答えは一つ。
来た事があるからだ。



303号室。
表札に名前は無い。
そういえば、マンションの入口に入居者募集の看板があった。



空き部屋なのか。今は。



それならば、前は?



「………」



暫く立ち尽くした後、哲雄はゆっくりと腕を持ち上げてドアノブを回した。



がつん、と手に響く抵抗感。
いくら回しても開かない扉。



きっとそうだろうと思っていた。




それなのに。



「……っえ」



予想は裏切られ、それは拍子抜けしてしまうぐらいあっさりと開いた。



不用心だとか、そんな言葉で片付けるものではないだろう。




――いる、のか。




僅かな躊躇いを胸に、哲雄は部屋に入り後ろ手で扉を閉めた。


 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ