A serial novel

□夕闇メモリズム X
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哲雄の前に二度も現れた崎山蓉司。
自分に何か伝えたいのだろうか。
だからこの現世に留まっているのだろうか。



(……馬鹿らしい)



そんなんじゃない、と睦に言ったのは何処の誰だろう。



幽霊だなんて。



崎山蓉司が死んでいる、だなんて。





そんな――そんな事――





「………嫌…だ」




嫌だ。嫌なんだ。



認めたくないんだ。
信じたくないんだ。
考えたくないんだ。



睦より、誰よりも。
崎山蓉司は生きていると、そう信じているのは自分なんだ。




(……どうして)




この葛藤も毎日続けば流石にうんざりしてきた。

元クラスメイトの生死など、特別気にも留めないくせに。
勿論、少なからず悲しいとは思うだろう。
しかしいくら泣いたって戻ってきてはくれないもの。
生者が出来る事は死者を慈しみ、愛し、忘れない事。



だけど。



そんなの、許せない。
耐えられない。



“彼”だけは。
そんな都合のいい事は、出来ない。



「………」



指が無意識に跳ねた。
それと同時に、脳裏にある場所が浮かぶ。



白壁の、三階立てのマンション。



(……尾吹町の)



つい先日、睦と別れた後に足が向いた場所。
理由は未だに分からない。


でもきっと、これもまた。
崎山蓉司へと繋がっているのではないか。
そう感じていた。



「……っ…」



立ち上がってガラス戸を閉める。
一旦部屋に戻って、財布と定期をボトムのポケットにねじ込んだ。


ウォレットチェーンを翻し、哲雄は足早に玄関へと向かう。
先程脱いだばかりの靴を履いて、一気に駆け出した。





日が沈む前ならば、会えるかもしれない。





急かされるように、背中を押されるように、走った。



 
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