A serial novel

□夕闇メモリズム W
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「……で?」
「…え」
「え、じゃねーし。何のために会ってんのよ、うちら」
「……あぁ」


アイスコーヒーに一口だけ口をつけてから、哲雄はゆっくりと息を吐いた。


「…崎山…蓉司」
「…うん」
「黒い髪で、肌が白くて、今にも倒れそうな感じ…で、あってるのか」
「…ん」
「卒業式の日に…会った」
「……は?」


がたりと音をたてて睦がゆらりと立ち上がった。
目を丸くさせて、しかし眉間には深い皺が刻まれている。


「……何、それ。どういう…」


続けたいのに上手く言葉が出ないのか、睦はテーブルに手をついたままで固まった。
このままだと襟首掴んで問いただされそうだったので、暫しの沈黙の後に哲雄が続きを買って出た。


「正直…見間違いかもしれない。自信なんかねぇけど」
「でも、見たんだろ!?」
「…あぁ」
「何処で!?」
「教室と…此処」
「ここ?」
「尾吹町のホーム」
「……うそだろ」


嘘じゃない。
それを示す為に哲雄は緩く頭を振った。


「な…何か話した?」
「いや……」
「なんで」
「駅では俺が電車乗ってて向こうは反対側のホームにいたし。教室ではお前が来た瞬間に…消えた」
「……消えた?」


睨むようにして目を細めるが、それはすぐに俯かれて見えなくなった。


「……何、お前。霊感とかある人?」
「ねぇよ」
「だって…おかしいじゃんそんなの。普通そういうのって…人が消えるとか……」


幽霊みたいじゃん。


意気消沈気味に呟いてから、睦は言葉を詰まらせた。


睦の気持ちもよく分かる。自分だってそう思った。
だが、一概にあれがこの世のものではないとも言い切れないような気がする。
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