A serial novel
□夕闇メモリズム W
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「久し振り。っても、まだ三ヶ月ぐらいしか経ってないか」
「そうだな」
「どうよ、大学は」
「別に。特に何も変わらない」
「相変わらずクールってか何つーか…大学生なんつったら遊び放題じゃねぇ?そこそこ勉強しつつサークル活動に熱入れてみたり合コン三昧してみたりー…」
「興味無いな」
「…あっそ。ま、そんな事だろうと思ったけどさ」
にっと歯を見せて笑ってから、睦はLサイズのドリンクコップから突き出たストローをかじりながら啜った。
「…お前は?」
「んあ?」
「仕事。続けてるんだろ、バイト」
「あぁ、まぁな。学校が無くなったからその分シフト入れられんのはいいけど、だったら就職しとけって話だよなぁ」
ははは、と軽く笑い飛ばしてみせた。
「あ、でもさ、この前店長にこのままうちに就職しないかって言われて。ちょっと悩み中」
「へぇ……」
全く睦はいい人生を送っていると思う。
両親は健在で、人からは好かれ周りにはいつも誰かがいる。おまけに運も良い。
到底自分には無いものだ。
哲雄の養父母は勿論健在だが、実父と実母の事は全く知らない。
生死さえ。
しかしそれを憂いた事は一度も無いし、かと言って睦を羨む気も無い。
今まで全部思い通りになってて、それが当たり前になって…。
でもその当たり前が崩された時。人間って心底馬鹿になるんだぜ。
高校時代、睦はそう哲雄にぼやいた事がある。
その言葉の真意の程は分からなかったが、そこで思った。
誰の胸にも嫌な思い出や感情がある。
それを見てみぬふりをして羨ましいだの憧れるだの、そんな事を思うのは愚かしい事だと。
自分は自分だ。
産まれた時から自分で、死ぬ時も自分のままだ。
誰かに成り変わる事など出来はしない。