A serial novel

□夕闇メモリズム W
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「……くそ」


一人で毒づいて、携帯電話を開いた。

比較的新しい機種のそれは、一年前に買い換えたものだ。
学校の屋上から落ちた時、下にプールがあったから助かったものの、携帯電話は当然いかれたから。

アドレス帳はいっそ清々しい程空っぽだが、唯一電話番号とメールアドレスが登録されている貴重な人物が三田睦だった。


メールを打つのは好きじゃない。
しかし電話も好きじゃない。
どちらも何を書けばいいのか、話したらいいのか分からないからだ。



一つ息を吐いてから、ボタンを押し始める。
余計な文章は入れず、手短に用件のみを。


To:三田睦
Sub:

サキヤマヨウジって、どんな奴だった?


送信。


卒業してから睦にメールを送るのは初めてだ。
初めてにしては素っ気なさすぎただろうか。


しかし聞きたいのはこの一点だし、睦の事だからわざわざこちらが聞かなくても近況を話してくれるだろうと勝手に思っていた。




5分後。
机に置いてあった携帯電話が震える。
開いてみると着信だった。
発信者は勿論、睦だ。


通話ボタンを押して耳に当てた瞬間、雲をも破るような大声が哲雄の鼓膜に突き刺さった。


『城沼っ!お前蓉司の事思い出したのか!?』


久し振りに聞く睦の声。

しかしそれよりも耳に残ったのは、睦が何気なく呼んだ“蓉司”という名前だった。


「…やっぱり…そうなんだな」
『何が?』
「崎山蓉司。名前だけ…思い出した」
『名前だけ…』


落胆したような、それでも僅かな希望が見えたかのような、乾いた笑みが電話口から聞こえてきた。


『…でもさ、名前だけでも思い出せて良かったよな』
「……あぁ」
『で、少し思い出したから、ちょっと気になってきた?』
「まぁ…そんなとこ」
『…しょーがねぇなー。んじゃ、この睦様が教えてあげましょうかねー』


場を和ませるように突然明るく言われて、哲雄は口角をうっすらと持ち上げた。
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