A serial novel

□夕闇メモリズム U
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「そろそろ卒業だな」


学校からの帰り道、■■とそんな会話をしていた。
黒髪が風に靡き、白い首元を見て綺麗だと思う。


「お前も…一年越しの卒業だろ」
「それを言うなよ。結構傷付くんだから」
「……悪い」


素直に謝る哲雄の姿がおかしかったのか、■■はうっすらと笑った。



校門に差し掛かったところで、腕が微かに後ろに引かれる。
見ると、■■が俯いたまま哲雄の制服の裾を握り締めていた。


「…どうした?」
「……一緒に卒業出来たら…良かったのにな」


その声がひどく寂しげで、心臓がどくりと大きく跳ねる。
指はいつの間にか離れていて、校門の線を境に外側に哲雄、内側に■■が立っていた。


「何、して…」
「……ごめん、城沼…」


遠ざかる。
夕日に伸びる影のように。


自分も■■も、足は繋ぎ止められたかのように動いていないのに。
ただ、距離だけが開いていく。



離れているのに■■の顔はやけにはっきり見えた。
眼鏡など掛けていないのに。



ふわりと微笑む口元が、ゆっくりと動いた。





――…哲雄。





それは自分の名前。


初めてこの声で、この名前を呼ばれたのはいつだったか。



そう、だから自分も。



彼の、名前を、呼んだんだ――



「……行くな」



喉が震えていた。



「…行くな」



拳を握り締めた。





「行くな…!蓉―――――



















 
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