A serial novel
□夕闇メモリズム U
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授業数が少なかったそれらの時間を過ごせば、あとは帰宅許可が出ている。
本来ならば既に帰ってもいい時間だが、相変わらず哲雄は教室に縛られていた。
「………」
空は晴れていた。
風はまだ冷たいが、日によってはもう春が来たのかと思ってしまう程暖かい日もある。
今日は日なたであれば暖かそうだ。
何かが足りない教室を抜け出して、哲雄は屋上へと上った。
そこは善弥が死亡した事件の時から立入禁止になっている。
ならば鍵でも掛かっているのかと試しにドアノブを回したらあっさり開いて驚いたのが半年前。
以来、晴れている日は昼食をここで食べていた。
ドアを開けると、薄暗い階段が光に照らされた。
ひゅうと耳元で風が鳴って、哲雄はそのまま足を一歩踏み出す。
フェンスを背にもたれ掛かると、金属同士が擦れ合ってぎいぎいと鳴った。
先程よりも近くなった空を見上げると、白い雲がぽつりと青に紛れて浮かんでいる。
独りきりの雲、独りきりの哲雄。
何かの悪い冗談のようで、ふっと口元に自嘲の笑みが浮かんだ。
此処でこんな時間を過ごすのも、数える程しか無いのだろう。
楽しい学生生活だったかと問われると回答に詰まるが、まぁ普通だったのではないだろうか。
ただ、記憶が戻らないまま卒業するのは嫌だった。
この学校に思い出の全てを置き去りにしてしまいそうで。
ほんのりと暖を含んだ風が哲雄の頬を撫でていく。
ゆるゆると睡魔が襲ってきて、思考に霞が掛かった。
朝方変な夢を見たからだろうか。
哲雄はその誘惑に逆らわず、大人しく眠りに落ちた。