A serial novel

□夕闇メモリズム T
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自分はあくまでも今まで通りのつもりだし、どんな風に変わったのかと聞いても曖昧な答えしか返ってこない。



両親にも、教師にも。
たいして親しくも無い睦からも言われた事がある。



特に睦の反応は顕著で、あからさまに不愉快だといった表情を浮かべられる事が多く、あまりに露骨な顔をされると流石に困惑してしまう。


言葉が少なく、周りに馴染めない性格だという事は自分でもよく分かっていたが、こうも頻繁に敵意に近い空気を送られると、流石に気分が悪い。



しかし睦は、ふと表情を消した。
和らいだのでは無い。消えて無くなってしまった。


空を見ているのか、人を見ているのか、何を見ているのか。
ぼんやりと眺める視線の先には、何が映っているのだろう。



「……まえ、と」
「…え?」



零れるように滑り出た言葉は聞き取れなかった。


睦は眩しそうに目を細めてからもう一度ゆっくりと、言った。



「……お前と…同じもん、待ってんだよ」



少し声が震えていたように聞こえたのは気のせいだろうか。
それを確かめる術は無く、睦はくるりと踵を返した。



「帰るのか」
「……おう」
「そうか」
「………」


お互い背を向けたまま、それきり黙ってしまう。
哲雄の足は相変わらず窓際に縫い止められたままだし、睦もまた、同じようだった。



「……城沼」
「何」
「早く…帰ってくればいいよなぁ」
「………」



脈絡が見えない会話に返事をする事は出来なかった。



睦が何に対して、誰に対してその願いを抱いているのか分からない。



でも、「何が?」なんて聞いたら、それこそ力任せに殴られそうだったし、自分自身でも憚られた。



きっと自分は、睦の言う「何か」を知っているのだ。



覚えていない、だけで。





 
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