A serial novel

□夕闇メモリズム V
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「卒業おめでとう」


そんな声があちこちから聞こえる。




三月。
駒波学園の校門には「卒業式」の看板が立てかけられ、保護者やら生徒やらが溢れていた。


学校から贈られたコサージュを胸に付け、卒業生達は友達との別れを惜しんだり写真を撮ったりしている。


騒がしい場所は好きじゃない。
卒業式には親も来てくれたが、職場の事情で先に家に戻った。



人付き合いが下手な自分が、式も終わっていい加減経つのにまだ学校にいる理由がよく分からない。

睦には一言何か言おうかとも思ったが、彼は人気者ゆえに人の壁が途切れる事は無かった。


「………」


正直、高校生活に未練がある訳ではない。
昔からそうだ。そういったものに冷めている。愛校精神など微塵も無かった。




それなのに何故か、引っ掛かる。




前、睦に言われたように“待っている”のだろうか。



“誰か”を。この学校で。



(誰か、って……誰)



分かっている。
哲雄の記憶の中で唯一秘匿された人物。



あの転校生だ。



でも、何故?



その理由は相変わらず分からない。



彼も、今日転校先の学校で卒業を迎えているのだろうか。
そんな事を思いながら、哲雄はふと教室へと足を向けた。





黒板はクラスの皆の落書きや寄せ書きで埋め尽くされていた。


がらんどうの教室。

窓からは蕾を膨らませた桜が見える。


通う事の無い教室。

自分も、睦も――“彼”も。





 
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