A serial novel
□夕闇メモリズム U
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夢を見た。
それはとても朧気で、頼りないものだったけれど。
“何か”に手が届きそうで、でもどんなに手を伸ばしても届かなくて。
「………」
目覚ましよりも先に起きたのは久し振りだった。
上半身を起こし夢の余韻に浸っていると、まるで思い出ごとぶち壊すようにして枕元のそれが鳴りだす。
――疲れる夢だった。
しっかりと目が覚めた哲雄が覚えているのは、ただそれだけになってしまっていた。
朝の電車は混んでいる。
うんざりする程の通勤ラッシュ。
これに乗るのもあと少しなんだと思えば、今暫く我慢出来る。
暦は二月後半。
数週間で卒業だ。
大学は既に推薦で受かっているが、時間が足りなかった授業を受けに行く以外家にいても特別する事が無いので律儀に毎日学校に通っている。
それに、学校で何かを待たなければならない気もした。
先日に睦との会話で胸に浮かんだ、あの違和感。
“何か”が一体何なのか、それはまだ分からない。
それでも待たなければいけない。
脅迫観念のような、義務感のようなものが頭に渦巻いた。
ぎゅうぎゅう詰めの車内な相変わらず空気が悪い。
自分は背が高めだからまだいいが、女性なんかはなかなか苦しいと思う。
事実、目の前にいるOL風の背の小さい女性は、苦しそうに身を縮こまらせている。
――あの時は。
今にも倒れそうな■■の隣に立って■■を■■■やった。
欠けた記憶が気持ち悪くて頭を振る。
どうして記憶が抜け落ちてしまったのだろう。
しかも、失った部分はかなり限定されている。
欠落しているのは数日間の記憶と、一人の人間の事だけだ。