A serial novel

□夕闇メモリズム T
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「……おい、城沼」



呼ばれて振り返った。
背後に立っていたのはクラスメイトの三田睦だ。


此方を睨み付けるようにして見上げてくるが、単に身長差の問題だけなのかもしれない。



「なに、してんの」



ぶっきらぼうに言葉が放たれて、哲雄は何も答えぬまま目蓋を少し伏せた。







放課後。
まばらに残る生徒。
窓から差し込む光でオレンジ色に染まる廊下。



何をしているか、だなんて。


そんなの、自分が一番聞きたい。



「……さぁ」
「さぁって…何それ」
「何…してるんだろうな。俺は……」



ぽつりと呟かれた言葉は、決して冗談めかしたものではなかった。



何をしてるんだろう。
授業はとっくに終わっているのだから、さっさと帰ればいいのに。




でも、何故だろう。



暮れる夕日を見ると、足が止まる。



「………」



口をへの字に曲げた睦が、仕方無しとばかりに哲雄の隣に立った。
窓の外へ視線を向けると、下校中の生徒がグラウンドをぽつぽつと歩いている。



「何か…待ってたりすんの?」



唐突に問われたから、目線だけをそちらに動かした。
睦は相変わらず不機嫌そうな顔のまま、じっと外を眺めている。



「何かって……何」
「知るかよ。別に聞いてみただけ」
「お前は……何か待ってるのか」
「……まぁ、な」
「何」
「………」



今度は突然黙り込んだ。
沈黙があまりにも長かったから流石に横を向くと、長めの前髪と伸びた影が邪魔をして顔が見えない。


辛うじて見える口唇は一文字に結ばれ、固く閉ざされている。





また、何かまずい事を言ったのだろうか。



一年前。
哲雄の記憶が欠落してしまったあの日から。


「変わった」と、言われるようになった。
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