小夜曲

□短編集
2ページ/68ページ






「たっらいまぁぁぁ!!」

「あっ、犬ちゃ…むぁっ?!」





 私の彼は……所謂、キス魔。


 場所だろうが時間だろうが何もかもを無視して、噛り付く様にキスをする。




「ちょっ……むっ……」




 ゲームしてる時だろうが、寝言やいびきさえうるさいのに、舌っ足らずの口調が閉じるのはこの時ぐらい。

 いや、キスの最中に喋られても困るけど…………、うるさいの。




 私の心臓の鼓動が。




 犬ちゃんに聞こえるんじゃないか、ってぐらい。

 うるさくて、うるさくて、

 うるさくて、たまらない。




 聞かれたくないのに……。

 キスの度にドキドキしてるなんて、恥ずかしいもん。

 犬ちゃんでさえ平然としてるのに、私1人だけがドキドキしてるなんて恥ずかしいよっ!

 聞かれたくない。





「…んむっ………」




 懸命にこのドキドキを抑えようとしてる私に気付かない犬ちゃんは、容赦無しに口付けを交わす。




 酸素を奪いながら、犬ちゃんはキスを続ける。


 でも流石に苦しくなって、強めに犬ちゃんの胸板を叩くと、やっと唇を離してくれる。




「チョコ!! チョコの味がしたびょんっ! 食べてたろっ?!」



 おー、相変わらずお察しが良い事。




「ねっ、オレにもちょーらい? ね? ね?」




 キスの所為で酸素不足の私に構う事無く、チョコ要求の犬ちゃんに呆れが滲む。

 まっ、それも又、犬ちゃんの可愛い所なんだけど……。





「はいはい。ほらっ」




 キスする前に食べた小さな角チョコを犬ちゃんに渡すと、犬ちゃんはイヌみたいに舌を出す。





「手じゃ嫌れふ。あーんれすよ。あーん!」




 チョコを手に戻され、犬歯鋭い口を開けて、私からの『あーん』を待つ犬ちゃん。




「はいはい。あーん」

「あーー……んっ!」




 『あーん』をしてチョコを口に放り込めば、幸せそうな顔でチョコを噛み始めた。

 これで犬ちゃんに尻尾が付いてたら、そりゃぁ、ぶんぶん、と思いっきり振ってるんだろうなぁ、ってぐらいの笑顔。



 やっぱり犬ちゃんは可愛い。











次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ