NOVEL2

□黄緑<薄青
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自転車置き場で傘を開いた時、大声で名前を呼ばれた。
「入ーれーてっ!」




黄緑<薄青




「お前傘は?」

朝は持ってきていたはずだ。部室でも見た。なのに今、田島の手に傘は見当たらなかった。

「部室に忘れた!」
「え」
「鍵閉めちゃってから気づいたんだよー」

あ!傘、俺が差してやるよ、花井は自転車押してるもんな!
そう言って田島は俺の傘をするりと取った。

その提案はありがたいが田島の高さだと俺の視界は黄緑色になるんだが。
…まあ、足元が見えたらいいか。


小さな黄緑の折り畳み傘で男2人がもちろん入るわけもなく、俺の右肩はしとしと降る雨で濡れている。田島も左肩は濡れてんだろうな。



世間一般に言うこの相合傘は、いいものではないと思う。
体の半分は結局濡れるわけだし、変に気を使うし。

それでもいいかもしれないと思ってしまうのは、

隣の天真爛漫な男が少しこちらに傘を多めに向けてくれていたり
肩がちょこんと当たるたびにぴくりと反応してほんの少しだけ離れてみたりとくすぐったい一面を見ることが出来るからだろう。




二人ともほんの少しだけゆっくり歩いていたけどあっという間に田島の家の前に着いてしまった。傘が俺に返される。

「ありがとうな!」
「ああ、じゃあまた明日な」
「あ、ちょっと待って」

そう言うと田島は家の中に入っていった。1分もしないうちに飛び出してきて渡されたのは薄青の

「…かっぱ?」

「おう、これ着て帰れよ!」


傘はあるのに何故かっぱを渡されたのかわからないまま固まっている俺に、田島は不審そうな顔をする。

「フリーサイズだから問題ないぞ」
「いや、そうじゃなくて!俺、傘あるからかっぱ借りなくても大丈夫だけど」


一瞬しんとして田島は少し低い声で呟いた。

「傘は危ないだろ」

くっとこっちを見る、あ、俺はこの目に弱い。

「片手じゃふらふらするし、だからカッパ!こっちの方がいいって」

来るときも片手に傘を差して来たわけだし、そこまで心配してもらうほどバランス感覚も悪くはないと思うんだが。
かっぱを着るわけでもなく何かを言うわけでもない俺に田島はにっと笑った。

「花井がこけて怪我したら皆困るだろ!」

あと、俺も嫌だ、だから

声が少し必死そうで心臓をぎゅっと捕まれた気分になった。

俺は田島みたいに素直に気持ちを言えない、けど、でもな。

「乾かしてたら返すの明後日になるかもしんねぇけど」
「いつでもいいよ!」

「…ありがとう」
「ん」

満足そうに頷く田島にちゃんと言えなくて、ごめんって心の中で謝った。

今のありがとうにかっぱを貸してくれることと心配してくれたことと俺のこと考えてくれたこと全部含めて。



包まれた薄青に暖かみを感じながら俺はペダルに足をかけた。

冷たい雨から守ってくれる無敵の鎧だなー!という田島の言葉に頬が緩むのを感じて、もう一度ありがとうと心の中で呟いた。

こんな気持ちにさせるきっかけをくれた雨空に、

ありがとう。



10.5.3


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