NOVEL2

□どんな日かなんて
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急に食べたくなった肉まんを買いに行ったコンビニで、俺はかわいい後輩を拾った。




どんな日かなんて




「何であんなずぶ濡れで立ってたの」

がしがしと白いタオルで髪を拭く泉に牛乳を温めながら尋ねる。

「…最初はあまり降ってなかったから」


多分、かっぱを着るのがめんどくさかったんだろう。だけど、

「スポーツやってんだから体気をつけろよ?」


風邪ひいたらどうすんだ、皆心配するぞ、一人いないと部活にも支障出るし、
と次々に浮かぶ言葉を飲み込む。
言わなくても泉には伝わっている。

がちゃっとガスをとめた。

「はい、牛乳温めたから」

「ん、」

泉は大人しくカップを受け取りそれをちびりちびりと飲みはじめた。

二つ買った肉まんの一つをすっと前に置く。
泉はちろりと俺を見て、そっと肉まんに手を伸ばした。

それを見て俺もがぶりと肉まんにかじりつく。



白いタオルを頭から被ってもそもそと肉まんを食べたりホットミルクを啜っている泉を見ていると、何となく猫を拾ってきた気分になった。


俺、あの時雨降っててめんどくさかったけどコンビニ行ってよかった。

多分これで風邪をひくことはないだろう。



「俺、浜田来ねぇかなって思ってたんだ」

もごもごと口いっぱいに肉まんを詰め込んであと一口程度になったカップを見ながら言う。

「そしたら来た」

普段あまり見ることのない、所謂微笑ってやつを口元に浮かべながら泉は、お前すげぇな、と呟いた。


猫も、誰か来ないかなって待ってるのかな
泉は俺を待っててくれた
…これは、嬉しい

なんて考えながらふんわりと目の前の男を後ろから抱きしめた。


腕の中の泉は少し戸惑っていたけど、やがてぐっと体重を預けてくれた。

水に濡れてシャンプーの匂いが強い、あ、泉の匂い


「雨の日は悪い日じゃない」

ん?と何か言いたげに俺を見上げる大きな双眸。

「人間中心の考え方をやめなさいって話」
「何かの受け売り?」


ちょっと前に朝の読書の時間に読んだ学級文庫の詩集だけど、

「なんかごめんなさいって思っちゃったー悪い日だと思ってたから。でも、」

雨がもし泉に風邪をひかせたなら俺は悪い日だと思うし、思う存分野球ができなくて残念な思いをさせたらやっぱり悪い日だと思うよ。


そこまで言って小さく息を吐いて、吸った。

「俺は仏様に叱られちゃうね」


短い沈黙、そして泉は被っていたタオルを外した。


「俺も一緒に叱られてやるから大丈夫」
「え」
「俺もお前が雨で濡れて風邪ひいたら悪い日だと、思う」


最後の方は消え入りそうな小さな声だったけど、ちゃんと聞こえた。


「そっか、じゃあ一緒に叱られようか」



あほ、って聞こえたけどそれは泉の肯定の印。




今日は雨の日だけど良い日です、だから腕の中の彼に唇を落とすの、許してください。



いつの間にか雨音は聞こえなくなっていた。






10.5.2


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