NOVEL3

□ああそんなこと
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※ちらっとやらしい




時々感じるこいつの「余裕」。

たったひとつ年が違うだけなのに。
それが堪らなく悔しくて、歯痒かった。





もちろん彼女なんて出来たことないですとも。俺は野球一筋だったの、なんて苦し紛れの言い訳だけど。

しかしこいつは確かに彼女がいたことがある。知ってますとも。
あの時得体の知れないモヤモヤに襲われていたなんて今更思い出したくもない。
何故モヤモヤするのか理由もわかっていなかった当時の自分が実に不憫である。

だけど俺達が今からしようとしているこの行為はおそらくお互い初めて。だから今回俺は、時々感じるこいつの「余裕」にやきもきする必要はないはずだ。



とか何とか頭の中で御託を並べて羞恥でいっぱいいっぱいになりそうなとこをどうにか引き止めていた。

俺には譲れないものがある。気を緩めるとすぐにそれは決壊する。強情だと言われようが求められようがひとつだけ、これだけは譲れない。

200メートルをダッシュした後よりもしんどい、というか酸素が足らない。
譲れないものを必死で守りながらどうにか口を開いた。

(伝えておかねば)

変な使命感が俺を支配する。

「…あのさ」

「ん?」

汗がじとりと流れるのは俺のかこいつのか両方か。

「俺、こ、声とか出せねぇから」

言った!言ってやったぞ!
使命感に続き変な達成感が俺を支配する。

女みたいに可愛らしい声は出せません、し、出しません。
これが俺のどうしても譲れないものである。


きょとんとした浜田を見ていると何だよ俺が間違ったこと言ってるみたいじゃねえか何も間違ってないぞと怒鳴りたくなった。

もごもごとする俺を見てこいつはあろうことか弾かれたように笑いだした。

「な」

「っはは!ごめ、ちょ蹴るなって!」

尚も笑いつづける浜田にもう今すぐやめてやる!と言ってやろうそうしようと決意をしたら、涙目な浜田が俺の髪をぐしゃぐしゃに混ぜながら言った。

「いいよ声とか」

やたら穏やかな声にさっきの決意は簡単に消え去る。


「息遣いだけで、充分」



たっぷり3秒かけて元より真っ赤な顔を5割増しした俺は、見られたくなくてそのまま抱き着いた。
ちらりと盗み見たその表情がまた。

(ほらそんな余裕ある顔しやがって)

悔しいけど撫でられる後頭部の暖かみに免じて今は許してやることにした。






(そんなこと言われたらますますかわいく見えるんですけど)





墓穴を掘った泉の話と浜田の内心

11.5.18


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