NOVEL3

□チャイムが鳴る前に言え!
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「なあ、お返し一緒に買いに行かない?」




今までは、
バレンタインにもらったチョコレートのお返しは適当におふくろに頼んで買ってきてもらっていた。
どうせ俺がもらってたのは義理ばかり。中学の時の野球部のマネージャーからだったり兄貴の彼女からだったり。

だから真剣にお返しなんか考えたこともないし、今回もそのつもりだった。
もらったのだって監督に篠岡、兄貴の彼女の3つだ。


しかし今回何故か浜田の提案によって俺は半ば強引に百貨店のホワイトデーコーナーへと連れてこられたわけだ。

「泉、大丈夫か?」

「人、多過ぎんだろ…」

明日がホワイトデーということもあってか人がごった返していて酔いそうだった。
バレンタインの短期バイトをしていた浜田曰く、その時に比べれば今日の人だかりなどかわいいものらしい。考えただけでも気が滅入る。

「何買えばいいのか全然わかんねぇんだけど」

「んー篠岡はかわいいのがいいんじゃね?監督と兄ちゃんの彼女にはちょっと大人っぽいやつとか」

そう簡単に言うけどなあ…どれも俺には同じに見える。それでも浜田の助言を頼りにひとつずつ選んでいった。

「あ、おばさんにもちゃんと買えよ?」

そういえばおふくろにも毎年もらっているがお返しなんか考えたことなかった。あれはそもそも親父のついでだろう。
返すものなの?と聞くとそういうもんなの、と言われた。


俺があとひとつを悩んでいる間にも浜田はさくさくと決めていく。
俺に比べるとその量は倍以上ある。まあバレンタインの日にいくつもらったか話をしたのでわかってはいたが、こう…男として複雑な気分だな…

「あ」

浜田の方を向いたらその奥のお菓子に目が止まった。

「どうした?」

「これ、どっかで…」

あまり甘いものは好きじゃないからお菓子は食べないし、詳しくない。しかし、このクッキーには見覚えがあった。

「これ去年親父が買ってきたやつだ」

この熊なのか猫なのかわからない動物に文句をつけた覚えがある。どっちかはっきりしろよ!というとかわいいからどっちでもいいのよ!とおふくろにこずかれたのが懐かしい。

「すげーうまかったんだ」

かわいらしい見た目だけどクッキーの表面を覆っているチョコレートがあまり甘くなくてすごく食べやすかったのを覚えている。
黒いのだけじゃなくて白いのもいてそっちの方が俺は好きだった。

「てことはおじさんからおばさんへのお返しがこれだったってこと?」

「そ」

「なのに泉が熊か猫かわからないっていうからおばさんに怒られちゃったんだ」

何もこずくことねぇよなあとぼやくとそれは泉が悪いと笑われた。

その横にあった犬かうさぎかわからないクッキーを手に取る。もうおふくろにはこれでいいや。

浜田も俺と同じクッキーを買って、俺達は百貨店を後にした。


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