NOVEL3

□貸し切り映画館とメール
2ページ/2ページ


そんな風に返事が来るようになって2年半、部活を引退して受験を経験し、俺達は卒業間近の自由登校期間に入っていた。
お互い大学は推薦で決まっていたから、早めの春休みにはキャッチボールをしたり野球を見に行ったりと、受験で鈍った感覚を呼び戻す時間を共有していた。


今日の試合は本当はシュンと見に行く予定だった。しかしシュンがインフルエンザにかかってしまい行けなくなってしまったため、三橋に声をかけたのだった。

他の用事で早めに球場の近くに来ていた俺は待ち合わせまでの3時間をどう潰すか考えていた。
はたりと近くに映画館があったことを思い出す。
昔よく家族で行ったその映画館は立地の条件からか席に段差がなく、前に人が座ると全然画面が見えない気の利かない造りとなっていた。またそう遠くないところに映画館を併設した大型ショッピングモールができたこともあり、その古い造りの映画館は存分に寂れていった。


携帯で上映スケジュールを確認するとちょうどいい時間に映画がある。
ちょうど昔の映画を再上映する企画があるらしく、学生証があれば500円で見れると来ればこれ以上ない暇つぶしになる。まだ少し寒い風に当たりながら自転車を進めた。

久しぶりに訪れたその映画館は思っていたよりも綺麗だった。内装はきちんと修繕されており寂れているのは映画館ではなく人の方らしい。

チケットを買って該当の部屋へ行くと、昔見た懐かしい椅子の並びにどことなくほっとした。同じ高さに設置された座席に、最近見慣れた映画館のスクリーンに比べたらかなり小さな銀幕。部屋はこんなに狭かっただろうか。あの頃は俺もまだまだ小さかったんだなと誰に言うわけでもなく呟いた。

それにしても誰もいない。そこでさっき座席の指定をされなかったことに気付く。どこでもいいってわけか。
とりあえず見易そうなところに陣取って携帯で三橋に連絡を入れることにした。

待ち合わせ場所と時間の確認とどうでもいいかもしれないが「映画見に来たけど俺以外誰もいねえ」と俺の現状を送っておいた。


開演10分前になっても誰も来やしない。500円で貸し切りか?贅沢だな。
そう考えていると携帯がメール受信のランプを照らした。

三橋 廉
sub Re3:
本文 w(゚o゚)w


……今まで(^O^)/やV(^0^)は見たことがあったが何それ…
まあ貸し切りにびっくりしたんだろなあ…逆に待ち合わせ場所と時間にびっくりされては困るんだけど。
それにしても間抜けな顔だな、と自然と口元が緩んでしまう。

携帯をぱたんと閉じたと同時に部屋が暗くなった。
今日会ったらメールのこと言ってみよう。お前、いつも変な顔文字で返事してくるけどあれ結構笑えるぞ、しかも今日の何、そういえばきっと三橋はふひっといつもの情けない顔で笑うんだろう。

なんだか無性に三橋に会いたくなった。

早く話したいと思ったことは何度かあるけど、今日のはちょっと特別なような気がした。



うちの母がこんなメールを寄越してきました
11.2.19

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ